私たちは、皇室の伝統的な男系継承を確保する「養子案」の早期実現を求める活動を進めています

(議事録全文)『安定的な皇位継承の在り方を検討する有識者会議』(第5回・令和3年5月31日)議事次第・配付資料・議事録

有識者会議(令和3年)

『安定的な皇位継承の在り方を検討する有識者会議』は通称であり、正式名称は『「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議』です。

議事録、資料などは次に示す内閣官房のホームページに掲載されていますが、Webでの閲覧や検索に適さないPDF形式であるため、当HPにてHTML形式に整形しなおしたものを掲載し、メディアによる切り取り・偏向報道を経ていない1次情報を広く国民の皆様に知っていただきたいと存じます。

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議|内閣官房ホームページ
内閣官房,「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議

議事次第

第5回 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 議事次第

日時:令和3年5月31日(月)17:00~19:15
場所:総理大臣官邸大会議室

議事

○ 開会
○ 有識者ヒアリング
 ・君塚 直隆  関東学院大学国際文化学部教授
 ・曽根 香奈子 公益社団法人日本青年会議所監事
 ・橋本 有生  早稲田大学法学学術院准教授
 ・都倉 武之  慶應義塾大学准教授
○ 第6回会議における有識者ヒアリング対象者
○ 閉会

配付資料

資料1 : 有識者ヒアリングの開催について(PDF/124KB)

資料2 : 君塚 直隆 関東学院大学国際文化学部教授 説明資料(PDF/226KB)

資料3 : 曽根 香奈子 公益社団法人日本青年会議所監事 説明資料(PDF/320KB)

資料4 : 橋本 有生 早稲田大学法学学術院准教授 説明資料(PDF/522KB)

資料5 : 都倉 武之 慶應義塾大学准教授 説明資料(PDF/426KB)

資料6 : 第6回会議における有識者ヒアリング対象者(案)(PDF/157KB)

議事録

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議(第5回)議事の記録

1 日時:

令和3年5月 31 日 16:58~19:17

2 場所:

総理大臣官邸大会議室

3 出席者:

・「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者 会議メンバー

大橋 真由美 上智大学法学部教授
清家 篤   日本私立学校振興・共済事業団理事長 慶應義塾学事顧問
冨田 哲郎  東日本旅客鉄道株式会社取締役会長
中江 有里  女優・作家・歌手
細谷 雄一  慶應義塾大学法学部教授
宮崎 緑   千葉商科大学国際教養学部教授

・政府側出席者

杉田 和博  内閣官房副長官
岩尾 信行  内閣法制次長
山﨑 重孝  内閣府事務次官(皇室典範改正準備室参与)
池田 憲治  宮内庁次長
大西 証史  内閣総務官(皇室典範改正準備室長)
溝口 洋   内閣審議官(皇室典範改正準備室副室長)

4 会議の内容

(1) 開会

座長から、本日の会議について、以下のような説明があった。

・ 本日は、第4回目の有識者ヒアリングを行う。
・ 関東学院大学国際文化学部教授の君塚直隆氏、公益社団法人日本青年会議所監事の曽根香奈子氏、早稲田大学法学学術院准教授の橋本有生氏、慶應義塾大学准教授の都倉武之氏の4名の方から順に御意見を伺う。
・ 各ヒアリング対象の方から20分程度御意見を伺い、10分程度意見交換を行う。
・ 意見交換では、第1回会議において決定した10の聴取項目にない事項も自由に質問していただいて結構である。

(2) 君塚直隆氏(関東学院大学国際文化学部教授)からの意見陳述及び意見交換

資料2 : 君塚 直隆 関東学院大学国際文化学部教授 説明資料(PDF/226KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように君塚氏から意見陳述があった

私は、専門はイギリスの政治外交史あるいはヨーロッパの王室などの研究であり、ヨーロッパ王室、21 世紀の現在において皇室はどういうふうにあるべきなのかというような点で、ヨーロッパとの比較などから、レジュメに沿って順次お話をさせていただく。

まず、天皇の役割や活動について、こちらは御案内のとおり、2019年5月1日に今の天皇陛下が即位され、それから10月に即位礼があった。この2度にわたって、天皇陛下はより国民に近づきたいとおっしゃった。上皇陛下もかなり国民に近づかれた天皇でいらっしゃったわけだが、より国民に近づきたいというふうにおっしゃっていたのだが、残念ながら昨年からコロナ禍によっていろいろと制約が出てきてしまっている。結局、実は国民から非常に遠い存在に残念ながらなってしまっているのではないか。

だから、これは、コロナになるずっと前から申し上げているが、今後コロナ禍が収まった後、もっと国民に近づく方策というのは、今、現状からもあるのではないか。例えば、お出になられた方もいらっしゃると思うが、園遊会。年に2回やって、年間5,000人くらい呼んでいる。ところが、例えば、イギリスの場合は年に4回やって、1 回に 8,000人以上呼ぶわけで、合計3万人以上となる。ご存じのとおり、人口はイギリスの方が日本の半分である。どうしてかというと、エリートだけ呼ぶのではなく、むしろ市町村では非常に有名なおじちゃんおばちゃんだが、コミュニティーのためにボランティアで一生懸命頑張っている、日本流で言うと市井の方たちを呼んでいる。そういう人たちもどんどんこれから呼んでいく余地はあるのではないか。

それから、2点目は叙勲である。春と秋にあり、こちらは日本の方が8,000人、イギリスは二千数百人であるから、日本の方が多いのだが、ご存じのとおり日本の場合は親授、つまり天皇陛下から直々に勲章をもらうのは大綬章と文化勲章だけであり、年間40人くらいである。ところが、イギリスは全員親授であり、女王陛下が勲4等であれ、5等であれ、一人一人に勲章を着ける。今、女王陛下は95歳であるから、この数年は、チャールズ皇太子、ウィリアム王子やアン王女も手伝っている。これがいいのではないか。日本でも一人一人、もちろん陛下一人では無理であるから、皇族十数人の方たちでみんなで分担してやられるとか、そういうことでもどんどん近づける。

ただ、今の2つはともにエリートの話である。3つ目に挙げたとおり、今年、たまたま1月1日に新年参賀ができなかったため、テレビビデオのメッセージがあったわけだが、あれもいろいろと改善の余地があると思う。ご存じのとおり、ヨーロッパなどではSNSもどんどん活用して、王室の活動というのをどんどん喧伝している。国民にどういうことをやっているかということをどんどん示しているということ。これもやっぱり必要になってくるのではないかと思う。

さて、次の問2だが、天皇皇后両陛下は、むしろ国民に割と親しまれているし、割と近づいている方の、あるいは親しみのある存在かもしれないが、皇室全体となると、もっと遠いのではないかと。これはまた最後の問10で申し上げるが、皇室の方々というのは、残念ながら日本の場合はヨーロッパの王族と比べて御公務がかなり少ない。格段に少ないと言っても過言ではない。というのは、レジュメに一例を挙げておいたが、今は15~16人の方たちで様々な名誉総裁、名誉会長といったことでいろんな団体に関わっている。レジュメを差し上げたときよりもっと最新の数字があり、今は15~16人で88の組織に関わっている。ところが、イギリスは同じような人数、18 人くらいで3,000の団体をやっている。もちろんイギリスは格段に多いのだが、ヨーロッパの他の北欧やベネルクス諸国も数百の団体を、しかも日本よりもっと少ない人数で、大体10人いないくらいでやっている。だから、いろんな団体に関わっている。慈善団体、チャリティー、いろんなものに関わっている。

そういうのをもうちょっと増やしていって、より国民に近づいていって、国民のためにいろいろとなさるとよい。ご存じのとおり、ヨーロッパではパトロンという言い方をするが、すなわち日本で言う名誉総裁、名誉会長で、その形にはなっていないけれども、関わっているというケースはある。ただ、それだと定期的にはできない。より深くできない。だから、やっぱりもうちょっと団体の名誉総裁、名誉会長を増やして、いわゆるパトロンとしてもっと深く関わっていくべきじゃないかというふうに思う。

さて、これからが本題になってくると思うが、その次の問3である。今言ったとおり、私はもっと今以上に皇室の方に国民に近づいてもらいたい。より公務を増やしてほしいと言っている中で、皇族の数がどんどん減っていくという状況では、本末転倒になってしまうわけである。これは当然ゆゆしき問題であろうと。皇族の数はむしろ増やしていかなければいけないというふうに思っている。

それでは、どうなのかということで、問4になるわけだが、現在までの現状を担っている男系男子のみに皇位継承資格を与えるということについては、それからもちろん、俗に言う臣籍降下、皇室典範第12条に当たるが、皇族の女性が皇族以外の男性と結婚した場合は皇室を離れなければいけないと。これはもちろん改正しなければいけない。一切廃止するべきだ。もちろん男系男子だけではなくて、そこにも書いているが、私は実は世の中で言っている「女性宮家」という言葉は嫌いであり、もう男性女性は関係ない。皇族にお生まれになった方はみんな宮家を作られて、配偶者の方も、それからお生まれになったお子さんもみんな皇族として、この後、公務を担っていくということでなければ、皇族あるいは皇室というのは担っていけない、維持できないというふうに思っている。

次の問5だが、それとも関わるが、内親王・女王にはもちろん皇位継承資格を認めていくべきだというふうに思っている。これについては、例えば、ヨーロッパの事例をお話しすると、ヨーロッパでもご存じのとおり中世から男系男子にこだわった。知っている方もいらっしゃると思うが、サリカ法というような法律があった。それから、近現代になってからも男系男子にこだわったという状況があった。ところが、1979年にスウェーデンでいわゆる絶対的長子相続制、男女を問わず第一子が優先される継承法にしていこうというふうになった。実は北欧でも 20 世紀の終わりまで女性に継承権がなかった。それが1953年にデンマークで女性にも継承権を与えようということになり、憲法が改正され、ご存じのとおり、今現在のマルグレーテ2世女王陛下が1972年から即位されているわけだが、もちろん国民から絶大な信頼を寄せられている。

お隣のスウェーデンも実はずっと男性だけだったが、憲法、それから王位継承法が1979年に改正された。ところが、面白いことと言っては失礼だが、女性に継承権があったオランダやイギリスは、そもそも継承権があったので、改正を考えなかった。考えなかったというか、男子を優先していた。女性はどうせ継げるんだからということで。ところがその後、ああ、考えてみればそうだなということで、男女関係なく継承権をきちんと第一子に優先させるべきだとして、今言った絶対的長子相続制とした。

だから、今まで男子にしか継承権がなかったスウェーデンがそれをやって、その後、すぐさまオランダ、ノルウェー、ベルギー、そしてデンマーク、ルクセンブルク、そしてイギリスというふうに制度を改正した。実は今現在ヨーロッパの主要な君主制をとっている国は8カ国あるが、スペインだけがまだ男子優先である。ただし、スペインも女性に継承権があり、御案内のとおり、今のフェリペ6世国王の次は2005年生まれのレオノール王女がもう皇太子である。アストゥリアス大公という皇太子になっており、次はレオノール女王の時代になる。だから、スペインも女性に継承権がある。

実を言うと、これでいくと、たまたまだが、愛子様と同い年のベルギーのエリザベート王女を筆頭に、ヨーロッパの大半が、あと30年くらいすると、ほとんど女王の時代になる。たまたまみんな女性が第一子だったということもある。もちろんその筆頭には、先ほど申し上げたスウェーデンが、ちょうど2019年の即位礼にもいらしてくださったカール16世グスタフ国王の長女のヴィクトリア皇太子がヴィクトリア女王として一番最初になられるが、その後もほとんど今の愛子様と同世代、21世紀生まれの女王たちの時代になっていくわけである。だから、ヨーロッパの事例を見てみても、女性への継承権、さらには絶対的長子相続制でその場合はやるべきだろうと私は思う。

次の問6に移る。もちろん女系についても継承権を拡大すべきだと思っている。これは先ほど申し上げたとおりである。ヨーロッパでもそういう状況になっている。だから、その場合も絶対的長子相続制で女系の人への継承権の順位を付けるべきだろうと思う。

問7になるが、先程もお話ししたとおりであり、内親王・女王が結婚なされた後も、さっきも言った宮家をお作りになって、配偶者もお子さんたちも皇族として、その後活動を続けていただけるというのが適切なのではないかと思われる。

婚姻によって既に皇族をお離れになられた方たち、レジュメにも具体的なお名前を書いておいたが、この10年ちょっとの間に3名の方たちがいらっしゃる。私の個人的な見解としては、特に黒田様の場合には、こちらのヒアリングでも以前、確か所先生がお話しになったと思うが、御案内のとおり、伊勢神宮の方で既に祭主で活躍していただいている。それから、一番最近結婚された守谷絢子様、高円宮家の三女の絢子様の場合は、特例というか、日本カナダ協会の総裁をなさっていて、それは結婚された後も引き続きやっていらっしゃるということである。もちろんそれはありがたいが、皇族として更に活動してもらい、もっといろんな組織を増やしてもらいたい。絢子様はまだ2つしかなさっていないわけなので、お一方2桁、あるいは場合によっては3桁の団体に関わってもらいたい。

例えば、今95歳のエリザベス女王陛下は 600 の団体をやっている。しかもお飾りではない。それは桁違いかもしれないが、やっぱり2~3桁くらいはお若い方たちにはどんどんいろんな団体に関わっていただくと。そのためには問8にあるように、一旦離れた方たちも、できれば戻ってきていただきたい。それから御家族もできれば皇族になっていただきたい。今すぐというのは大変かもしれない。しかし、規定さえ作っておいていただければ、あとは運用次第だと思うので、きちんと規定として、今までお話をしたような女系あるいは女性の皇族方のための規定をきちんと作っておいてほしいというふうに思っている。

それとも関わるが、次の問9になるが、こちらは①、②、2つの御質問がある。①の方の養子縁組は可能ではないかと私は思う。ただし、もちろん御本人たち、既に皇室を離れていらっしゃる男系男子の旧皇族のお宅の方たちだが、そういう人たちの意思もあるだろうし、どのような形で、例えばどのお宅に養子に行くのかとか、そういった問題があるので、それは詰めていかなければいけないだろう。それと同時にもう1つ注意していただきたいのは、私は賛成ではあるが、レジュメに書いたとおり、今ずっとお話をしてきたような、現在いらっしゃる女性の皇族方で、結婚されたらその御家族を皇族として、それでもまだ公務が難しい、足りないという場合のみに限る。急ぐ必要はない。

ただし、今言ったように規定として設けておいていただく。養子縁組は可能だという規定だけ設けていただいて、本当に足りないなという段階になられたら、それを適用していくと。だから、私は、現在いらっしゃる女性皇族が御結婚されて、皆さん皇族になって、お生まれになっていらっしゃる方もみんな皇族になって、というのでも足りない場合に可能という考えである。

もう1つの②だが、こちらは私は反対である。ただし、それも留保していただきたいのは、今の①と同じで、やはり今の女性皇族の方たちだけではどうしても駄目になってしまったという場合は、可能性は残しておいてもいいかなと。ただし、今すぐこれを規定として設ける必要はない。すなわち、もう離れられた旧皇族の方たちを皇族として戻すということは、今は必要ないというふうに私は思っている。

最後の問10になるが、先程からお話ししていることで、問9までのところはお答えしたとおりであるが、そのほかに何かあるかという場合は、何と言っても、問1と問2でもお話をしたとおりで、今現在、皇室と国民との間というのは非常に遠い。だからこそ、こうやって先生方あるいは事務局の皆様方が一生懸命こういう会議を開いていても、国民の間では余り関心がない。薄い。それはなぜかといったら、圧倒的に広報が足りない。今、ご存じのとおり、宮内庁のホームページはある。ただ、国民が見たいのは役所のホームページではない。皇室のホームページを見たいのだ。

ヨーロッパはご存じのとおり、イギリスがロイヤルファミリーのホームページを初めて1997年に開設した。当時たまたまダイアナ事件というのが起こって、国民の間にイギリス王室に対する誤解があった。それを解いていくのに一生懸命これを使っていこうということで、王族、王室の活動を広報するためどんどんホームページを使った。それから 21 世紀になってからは、さらに YouTube、Twitter、あるいは Instagram をどんどん活用していって、これはいいということで、ヨーロッパ王室もそれをまねて、みんなどんどんやっていくようになった。また、イギリス王室の場合は、それぞれの宮廷でもInstagram を作ったりした。例えば、今一番人気なのはウィリアム王子とキャサリンさんであり、1,200万フォロワー以上いる。それから、もちろん王室も 1,000万フォロワーくらいいる。だから、そうやってどんどん王室、それから各人、もちろんこれは北欧やベネルクス諸国も、みんなイギリス王室をまねるようになった。

こうやってSNSをどんどん使うことによって、皇室の人たちは何をしているんだろう、何を自分たちのためにしてくれて努力してくれているんだろう、ということを国民に分かってもらわないといけない。すると、国民も、皇室というのは大切なものである、やっぱり残さなきゃいけない、というふうに思われて、この有識者会議も、あるいはその行方も、当然今以上に関心を集めるし、みんな真剣に考えてくれるというふうに思う。

だから、広報というものはもちろん今後大切であって、これによって皇室が何をしているかが分かる。それと同時に、失礼ながら皇族の方たちにもより一層、今まで以上に活動していただきたい。だからこそ、SNS でもどんどん宣伝できる。そういった相乗効果を狙っていけば、恐らく国民の皇室に対する、あるいは皇位継承という問題に対する関心が、より深まっていくのではないか。

私のお話は以上で終わらせていただく。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと君塚氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 女性天皇あるいは女系天皇については、今現実に皇位継承権をお持ちの方が3人いらっしゃる中で、先生のお考えをどういうふうに適用していくのか。今すぐ適用するのか、あるいは、ある程度時間をおいてか。お考えがあればお聞きしたい。
・ あくまでも私の意見でよろしければ、私は、現在の天皇陛下の段階から絶対的長子相続制を適用すべきであると考える。今の陛下のお子様、愛子様からということである。
付け加えると、先程言った 1953 年のデンマークのケースだが、ちょうどデンマークでなぜそうなったのかというと、御案内のとおり、デンマークは 1940年4月9日にナチスドイツ軍によって占領され、以後、1945年に解放されるまで大変であった。当時はクリスチャン 10 世という、今のマルグレーテ2世のおじいさまが国王で、彼が本当にナチスに抵抗する象徴になっていた。
ところが、戦中、今のマルグレーテ女王陛下は1940年、ちょうどその1週間後の4月16日にお生まれになった。フレゼリク、後の9世国王は、当時は皇太子であったので、イングリッド王女というスウェーデンの王女様がデンマークに嫁がれて、フレゼリクさんの奥様になられて、実は最初流産されて、その後、今言ったマルグレーテさんのほか、お2人お子さんが生まれた。だから合計3人お生まれになったのだが、皆さん王女だった。当時、デンマークは王子すなわち男子しか継承できなかったのだが、結局最後1946年にお生まれになったアンネ・マリーさんの後は、お医者さんの勧めで、これ以上はおやめになった方がいいというふうに言われた。
ところが、イングリッドさんは非常に国民からも絶大な信頼を寄せられていた。特にナチスドイツに対する徹底抗戦、もちろん占領はされているが、抗戦の象徴として、国王夫妻と並んで、この皇太子夫妻というのは本当に国民の象徴だった。そのままでいくと、当時の継承法だと、フレゼリクさんのすぐ下、年子の弟さんでクヌーズ王子という方がいて、そちらはお子さんに男子が2人いたので、そちらに王位がいくということになっていた。
ところが、お2人を産んだお母さん、すなわちクヌーズの奥様のお母さんという人が、実はナチスの占領中にかなりナチスに友好的な態度というか、むしろ国民を裏切るような態度だったので、戦後すぐ追放される。もちろんそのお孫さんたちというのはそのままとどまったわけだが、御本家というか、フレゼリク皇太子の御一家、イングリッド王女も非常に国民から信頼があって、そういうお宅に比べると、やはり劣るだろうと。こういう人たちが果たしてデンマークの君主になっていいのかという議論がすごく高まった。
もちろんその一方で、もう時代が違う、男女平等だろうという考えもあった。御案内のとおり、北欧は非常に先進的である。その辺りから国民投票になって、それによって継承を変えようと。その結果、今のマルグレーテ女王陛下の方に王位がいくことになった。その後、21 世紀になってからだが、絶対的長子相続制もとられた。たまたまマルグレーテ女王陛下の子は坊ちゃん2人なので、その後はフレゼリク皇太子が、またその後もクリスチャン王子が継ぐことになるが、そういった事情もあった。
だから、いろんな事情があって、当時の皇太子、その後、国王になられたフレゼリクさん御一家に託していいじゃないかと。それから、やっぱり女性でも全然しっかりやれるじゃないかという声があった。デンマークは、実は中世以来のヨーロッパで現有では一番古い王朝である。そういったお宅でも変わったわけなので。もちろん日本にすぐさまこれを適用するのは大変難しい部分もあるが。
ただ、やっぱり時代が違う。最後の問 10 で言いたかったのは、もう 21 世紀の現在は、男性だとか女性だとか、あるいは男系だとか女系だとかいう問題じゃなくて、一体国民のために何をしてくれているのかというのが国民にとっての王室のあり方で、皇室のあり方なのだと思う。それと同時に、国民の支持が無くなったら、王室も皇室もおしまいだと思う。だから、そういった意味で、御案内のとおり、世論調査が全てではないが、かなりの割合、8~9割近くが女性天皇若しくは女系天皇というものに非常に好意的というか、支持をする声が多いというのも、ヨーロッパの事例などを参考にして、考えていけるんじゃないかと私は思う。

・ デンマークもヨーロッパで非常に歴史の長い王家で、それまでずっと男系で来ていたということで、いろいろな事情がありながらも男系を維持すべきだという、確固たる意見の方もいたのではないかと思うが、どのように調整をしたのか。そこの調整を間違うと、王室全体への信頼感が無くなってしまったりすると思うので、何か特に、こういうことがあって男系派の方も納得したという理由があれば、伺いたい。
・ 私はデンマークが専門ではないが、ただ、もちろんデンマークの事例も幾つか調べた。そのため、本当に細かいことまではなかなか言えないが、先ほど申し上げた、特にヨーロッパでナチスに蹂躙された国々というのは、王室と国民の間の一体感が非常に強まった。唯一ベルギーだけ、御案内のとおり、当時のレオポルド3世がオランダやルクセンブルクとは違って、王様が亡命しないでとどまってしまった。これは裏切りではないかということで、御案内のとおり、戦後、国民投票が行われて、結局 1951年に退位された。
だから、それが今の日本とは違う部分もある。やはり第二次大戦中のナチスに対するレジスタンスというか、徹底抗戦。亡命した、例えばオランダのウィルへルミナ女王、あるいはルクセンブルクのシャルロット大公というのは、戦後、凱旋将軍のようになり、それでより一体感が強まった。そういった女性たちは、亡命して国内のレジスタンスにBBCからラジオで訴えかけてという動きがあり、一方で男の国王であったレオポルドさんがとどまってしまうという現象も起こった。デンマークも同様にクリスチャン国王がとどまってはいたけれど、それは仕方ないことであったのだが、徹底抗戦の象徴になって、フレゼリク皇太子夫妻が全面的に支えた。その信頼。それから逆に、さっき述べたとおり、反対側のクヌーズさんのお宅は、おしゅうとめさんがそういう行為に出てしまった。それを止めなかったという部分もあった。
だから、そうやって、国民からの信頼が圧倒的に強かった。スキャンダルと言ってはいけないかもしれないが、それが国民に大きい影響を与えたと同時に、先程から言っているとおり、1950 年代になると、というか実は戦前から、女性に継承権を与えるべきだというような声はあった。ところが、そのときは残念ながら国民投票では既定の数に足りなかった。今言ったナチスとの戦争があり、そういったいろんな問題があった結果、数字ががらっと変わって一挙に、という部分があった。
やはり時代の風潮というか、男女の同権という問題については、ノルウェーもスウェーデンもデンマークも北欧はなかなか厳格であった。女性に継承権がなかった。先ほど申し上げたとおり、オランダやルクセンブルクでは女性に継承権があり、ベルギーではなかったが、この体制を見たり、あるいは、第二次世界大戦では、日本もそうだが、一般の方も含めて女性たちも必死になっていた、そういった貢献というものも考えれば、もう男だけではおかしいだろうという、両方である。時代の波と、それからデンマークのそういう情勢、これがちょうど合致した結果、そういう方向になったというふうに思う。

・ 皇位継承の問題と皇族数の減少の問題というのは、リンクはしているかもしれないが、論点を別に考えたい。皇族数の減少について、先程北欧やベネルクスなどでも 10人足らずの王族だというお話があった。少子化の傾向は、世界的に、王族であるかどうかにかかわらずあると思うが、10 人足らずの王族が少子化でどんどん減っていくかもしれないというような危惧を、ヨーロッパの王室はどの程度持っているのか。今我が国で大きな論点となっていることの一つが、皇族数をどう増やすかということであるが、ヨーロッパではそういった動きはあるのか、あるとしたらどのような対策をしているのか、教えていただきたい。
・ 実を言うと、ヨーロッパはむしろスリム化をしている。なぜ男女問わずに、と申し上げたいかというと、例えば、先程のデンマークのケースもそうだが、当時のイングリッド皇太子妃が、やはり男の子を産まなくてはいけないというプレッシャーがあった。これもやはり国民が、分かりました、やっぱり良くない、と考えた。実は、上皇陛下、上皇后陛下と非常に仲の良かったベルギーの先々代のボードゥアン1世国王の奥様は、残念ながら5回流産されている。当時のベルギーは男しか王位を継承できないという問題があり、ファビオラ王妃も国民から絶大な信頼を寄せられていた王妃だったが、やはりそういったプレッシャーがあった。そういったことも良くないということから、ベルギーにおいても女性への継承権を認め、それから絶対的長子相続制ということになった。
そういうこともあり、先程言った絶対的長子相続制がほぼ固まってから、ヨーロッパの今の皇太子の方たちはみんな結婚されたので、それもあったのかもしれないが、今現在、お子さんがどんどん生まれている。お一方、3~4人くらい生まれていらっしゃると思う。スウェーデンは御案内のとおり、1974年の憲法改正で一挙に制度が改正され、王様は日本でいうところの国事行為はほとんどなさらないこととなった。だから、いわゆるチャリティーや外交などに限られた公務になられたので、むしろスリム化しなければいけない。実は今、お孫さんを全部合わせると15~16人以上になってしまうので、そんな必要はないと。
イギリスの場合はむしろ、さっき言ったように公務がすごく多い。ところが、女性も継承できるし、皆さんどんどん子宝に恵まれているので、御案内のとおり、エリザベス女王もひ孫が今度12人目になるのかな。非常に多い。ただ、イギリスはすごく公務が多いので、ちょうどよいくらいである。ただ、昨年から問題になっているハリー王子夫妻が王室を出てしまうが。だから、今までは考えられなかったアンドリュー王子の2人のお嬢さんたちもちゃんと公務をやってもらおうかと、いろんな問題になっているが、他のヨーロッパはそこまで公務は多くないので、むしろもうちょっとスリム化していこうとしている。日本から見るとぜいたくだが。
しかし、日本は今日お話ししたとおり、むしろヨーロッパと比べて公務が少ない。かなり少ない。だから、ヨーロッパとは違って、むしろもっと増やさなくてはいけない。何が言いたいかというと、イギリスも含めて王女というのは、普通は王女一人だけが王族であって、配偶者やお子さんは王族ではない。例えば、イギリスの場合は女王陛下の長女であるアン王女は王族だが、御主人様と息子さん、娘さんは王族ではない。公務にたまに参加されるが、御自身で団体を受け持つということはない。ところが、今日話したとおり、日本はそれでは追いつかない。足りない。だから、内親王や女王だけではなく、御家族も公務をやってもらわなくては無理だろうということを申し上げた。これでお答えになっているだろうか。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、君塚氏からのヒアリングを終了した。

(3) 曽根香奈子氏(公益社団法人日本青年会議所監事)からの意見陳述及び意見交換

資料3 : 曽根 香奈子 公益社団法人日本青年会議所監事 説明資料(PDF/320KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように曽根氏から意見陳述があった。

私は、現在は、愛知県半田市の株式会社武田工業所というところで製造業、主に鋳造を行っている。父が2代目として、私が3代目として継承している。3児の母でもある。このような機会をいただき、ありがたく思っている。そして、安定的な皇位継承の確保という大変重要な役割を担われている、地位のあるこの会議に出席し、私自身も緊張している。

私はごく普通の民間人である。そして、国民の1人である。専門的な知識はない。しかし、その中で皇室のお役に立てるのであればということで、今回出席を引き受けさせていただいた。

この機会に、私なりに学び、情報を得て、その後、自らの考えを持つことができた。だからこそありのままに、そして素直に、率直にお話をさせていただけたらと思っている。それでは質問の項目に沿ってお話しさせていただく。

問1について。まず、天皇というお立場は日本国と日本国民の象徴、シンボルだと思っている。その役割と活動は3つ。1つ目が祭り主、宮中祭祀の長として執り行われること。2つ目が、お田植えを宮中で行われて、農業を始めとした伝統産業を守り、伝えることの大切さを示されていること。3つ目として、国家元首としての御公務。この3点をお務めいただいていると思っている。

問2の皇族の役割や活動について。天皇陛下御自ら御奉仕される宮中祭祀や御公務以外の皇室の御公務を行っていただくことだと思う。皇后陛下におかれては、養蚕業をされていらっしゃるが、これは天皇陛下が行われる稲作りとともに、伝統産業に携わる者にとって、大きな励ましになっていると思う。ただし、天皇陛下は皇族には含まれず、別格の御存在と心得ているので、歴代天皇陛下のみが行ってこられた御祭儀・御公務は、皇族といえども代わりになされるべきものではない、代わりにできるものではないと考えている。

問3に移る。皇族数の減少についてである。皇族の活動に一定の支障を来すという心配はもちろんあるが、この有識者会議の議論においての根本の問題ではないと思う。なぜなら、安定的な皇位継承の資格を確保するための課題としては、皇位継承資格を有する者の減少が根本の問題であるからである。これについては、志ある旧宮家の方々に皇族、皇室へ復帰していただく以外に、この根本問題を解決する道はないと思っている。ただし、皇族数が減少すれば、天皇及び皇族の御公務の御負担が増えるのは確かであるから、何らかの対策は必要だと考えている。

問4に移る。「皇統に属する男系の男子である皇族のみが皇位継承資格を有し、女性皇族は婚姻に伴い皇族の身分を離れることとしている現行制度の意義をどのように考えるか」ということである。これは大変大事な点だと思うので、私が学び、感じ、そして考えに至ったことを少し詳しくお話ししたい。

皇族について考えたときの最初、今回の機会をいただき、私が一番初めに発した言葉は、「このように社会の女性活躍が進んでいる。男女平等を進めている今の社会と、皇族も同じように考えては。」と一言目に申し上げた。恐らく多くの一般国民も同じかと思う。皇位継承資格を男系の男子に限る必要はないのではないか、と思っていた次第である。

しかし、皇室についての私の認識が少しずつ深まり、学んでいくに従って、誤りに気付いた。その点について、3つお話ししたいと思う。

1つ目は、最初に申し上げたことであるが、天皇陛下が祭り主であり、宮中祭祀を執り行われることが最も大切な役割であるということ。そのお祭りをなさる資格が皇統に属する男系に限られてきたという歴史、それが皇室の伝統だということを知ったからである。この伝統は古代より 2000 年以上の歴史を通じて守り続けられてきた。この伝統を守るために、皇室ばかりでなく、お仕えしてきた臣下も努力してきたのではないか。

これは、国全体、国民全体で守ってきた伝統であり、日本人としての誇りであると同時に、国民としての結束力の証でもあると思う。テレビやメディアで見る、天皇陛下が地方にいらっしゃると、国民が集まり、嬉しくて歓喜する。その光景が結束力の証だとも言えるのではないか。

この会議の中心的なテーマは、安定的な皇位継承である。そこで、安定とはどういう意味なのだろうか。国民世論なのだろうか。確かに世論は大切ではあると思う。私自身も初めはそのように考えていた。しかし、世論は時とともに大きく揺れ動いていく。少し前まで褒め称えられた人々が、あっという間に大きな批判にさらされる様子を私たちはしばしば目にしている。そう考えると、世論に頼りすぎることは、かえって不安定の原因になってしまうのではないかと思う。

では、何に頼るべきなのか。私は伝統だと考えた。2000年以上も続いてきた神武天皇以来の男系継承の伝統は、揺るぎようがないと考えている。やはり皇室にはその伝統を維持していただき、私たち国民は伝統の価値を理解できるように学んでいくというのが本筋だと考えている。

皇室が国にもたらす安定性を考えたときに、私は「こま」のイメージが浮かんだ。こまは高速で回転していく。中心がなければ回っていかない。その中心が天皇陛下であるとするならば、その周りを回っているのは国民であると考える。皇室が皇位継承の原則と伝統をしっかり守っておられるという中心軸があるからこそ、私たち国民は様々な変化、時代とともに変化していくことを受け入れ、多様で豊かに暮らしていける。この安定のおかげで、平和でいられたのではないだろうか。

2つ目である。今私は「多様」という言葉を申し上げた。これは2つ目の話に関係する。多様性は、皇室の場合、皇室に入られた女性の方々が担ってこられていたのではないかと考えている。中島みゆきさんのヒット曲に「糸」という曲がある。男性が縦糸で、女性が横糸に例えられていると思う。男性は布を布として成り立たせている縦糸、女性は布に美しい模様を与える横糸。この役割は皇室でも同じだと考えた。むしろ、皇室の方がもっとはっきりしていて、男性の一貫性と女性の多様性によって、皇室の伝統と文化が織りなされてきたように見えている。

少し昔話になるが、例えば「天孫降臨」の物語によれば、天から九州の高千穂に天照大神の孫である瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が降臨された。天から下って来られた瓊瓊杵尊とその子孫は、天から続く縦の一貫性を主張する存在である。瓊瓊杵尊には、山の神の娘である木花咲耶姫(このはなさくやひめ)が嫁がれ、2人の間に生まれた彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)には、海の神の娘である豊玉姫(とよたまひめ)が嫁がれた。つまり、天からの一貫性を主張する男系の子孫に、地の多様性を主張する山の神の娘や海の神の娘が嫁いで、天と地の和合が生まれたと考えている。そして、初代の神武天皇は、九州から東征して大和を平定された後に、大和の神である事代主命(ことしろぬしのみこと)の娘である媛蹈韛五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)をお妃とされた。

第2代の綏靖天皇から第4代懿徳天皇までは、神の娘や孫を妃とされている。その後の第10代崇神天皇までは、大和の豪族の娘を妃とされた。これによって、九州からやって来た天皇の一族と大和の豪族との和合が成立したといわれている。

仏教は、第29代欽明天皇の時代であるが、そのお妃で蘇我稲目(そがのいなめ)の娘である堅塩媛(きたしひめ)を通じ、仏教が後宮に入り、お2人の子供である第31代用明天皇が仏教を信じられるようになって、皇室と仏教との結びつきが生まれた。

皇室のお寺である京都の泉涌寺では、昭和天皇までの御位牌が祭られており、そのつながりはいつまでも続いていると伺っている。第45代聖武天皇の皇后である藤原氏出身の光明子(こうみょうし)は、平城京に悲田院を設けて孤児や病人を収容し、皇后宮職に施薬院を設けて、医療に当たられた。

皇室の女性による福祉事業は、特に近代において盛んとなった。現在、皇后陛下は日本赤十字の名誉総裁を務めておられる。このように、女性による多様な事業への参入は、仏教導入の場合のように多少の混乱をもたらしつつも、最終的には調和ある形で統合され、皇室の多彩な伝統となってきた。それは、その根底において、男系による皇位継承の原則が貫かれていたからだと思う。この一貫性と多様性が調和した皇室の伝統を守り続けていくことは、とても大切なことだと思った次第である。

そして3つ目は、女性によってもたらされる多様性は素晴らしいものだが、それによって皇統に属する男子が担ってこられた一貫性を壊してはならないということである。横糸ばかりで、縦糸がなければ、布は織ることができない。縦糸が切れてしまっても布は織れない。女性皇族の婚姻に伴い、その配偶者が皇室に入られること、そして、その方の子孫が皇位につかれるということは、縦糸が切れてしまう、変わってしまうということである。それでは伝統的な菊の紋の織物ではなく、別の血筋の紋が入った、別の織物に変わってしまう。私が別の血筋の紋と申し上げたのは、皇統に属さない男性の血筋のことである。

3つ目のまとめとして、女性皇族の配偶者の男性は、皇室とは区別された姓を持った方で、その御子息・御令嬢も皇族とは別の血筋に属することになる。したがって、女性皇族の配偶者、御子息・御令嬢は皇族としての御活動ができず、若しくはされても意味がないと考えている。以上が問4についてである。

続いて、問5の「内親王・女王に皇位継承資格を認めることについてはどのように考えるか。その場合、皇位継承順位についてはどう考えるか」についてである。原則的な考えは今申し上げたとおりである。ただし、歴史的にはその時代、世代の状況により、皇族女性が皇嗣となったり、寡婦か未婚の状態で、時代背景などもあり、中継ぎ的役割で御即位されたりしたことはあった。したがって、男系女子の継承は、一時的にどうしても必要なときは可能だと考えている。しかし、その御子息・御令嬢である女系男子や女系女子への継承はあってはならないものだと考えている。

皇位継承順位は現皇室典範どおりが正しいと思っている。そして、繰り返しになるが、今日問題とされている安定的な皇位継承について、女性天皇の容認は解決策にはならないと考えている。

問6に入る。「皇位継承資格を女系に拡大することについてはどのように考えるか」ということである。これについては反対である。歴代父系、男系をたどり、初代神武天皇に血統がつながることが天皇の定義だと理解している。いわゆる女系ということは、母系をたどることである。女系天皇というのは天皇には当たらず、もしも今後、女系天皇なるものが誕生すれば、それは天皇ではなく、新たな王朝を開くこととなり、皇室の歴史が終わり、ひいては日本の歴史が終わり、新王朝の下、新たな国家を開くことになるからだと考える。

ここで、私が、天照大神のことがネックになってぶつかった疑問についてお話ししたい。この疑問は多くの国民が抱いている疑問でもあると思ったからである。私がこの機会をいただき、勉強したときに、天皇の御先祖である天照大神は女性だから、皇統はもともと女系で始まっているのではないか。それなのになぜ男系にこだわる必要があるのか、という疑問を持った。

それで「日本書紀」を読んで、系譜について学んだところ、皇室の御先祖の神々についても男系が続いていることが分かった。国生みをされた伊邪那岐命(いざなぎのみこと)も、その子供で姉の天照大神、誓約(うけい)をされた素戔嗚尊(すさのおのみこと)が誓約時に産んだ正哉吾勝勝速日天忍穗耳尊(まさかあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)も、その子供の彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)、その子供も神武天皇という系譜であった。

そして、中世以来、最もまとまった権威ある皇室系譜とされてきた本朝皇胤紹運録(ほんちょうこういんじょううんろく)でも、天忍穗耳尊を素戔嗚尊第一子としていることが分かり、これで私の疑問は氷解した。

問7に移る。「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについてはどのように考えるか」である。これについては、必要ないと考えている。繰り返しになるが、その配偶者と御子息・御令嬢は皇族ではない。皇族としての御活動はできず、意味がないからだと考えている。配偶者と御子息・御令嬢を民間人とし、内親王・女王が皇族に残ったとしても、御家族の中で身分が分かれることとなる。国民の理解が得られないと考えたからである。また、皇族としての御活躍もかなり難しくなることが容易に想像できる。

続いて、問8の「婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援することについてはどのように考えるか」である。菊栄親睦会や新たな組織などがあれば、御活動いただくべきだと考えている。

そして、問9の「皇族に属する男系の男子を①又は②により皇族にすることについてはどのように考えるか」についてである。①については、旧宮家であれば、GHQ により、ハーグ陸戦条約違反にて、不当に臣籍降下されたものと理解しているので、旧宮家の志ある方を養子縁組することのみ可能にすべきだと思う。②に関しては、「皇統に属する男系の男子を現在の皇族とは別に新たに皇族とすること」は賛成である。

最後に、問10.「安定的な皇位継承を確保するための方策や、皇族数の減少に係る対応策として、そのほかにどのようなものが考えられるか」についてである。旧宮家の皇族復帰しかないと思う。旧宮家の方々と丁重に議論を重ね、志ある方々に皇族、皇室にお戻りいただければと思っている。

以上、私の考えをお伝えさせていただいた。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと曽根氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 2点お伺いしたい。皇位継承資格についてであるが、男系男子に限定するという現在の制度を維持した場合に、現在、皇位継承資格を有する方がお三方いらっしゃる。次世代では悠仁様であるが、それ以降のことについては未定の状態である。もちろん御結婚される可能性もあり、生まれてくるお子様の男女の別も全く分からない。しかし、ここでまた同じ問題が起きるということもあり得ると思うが、その点についてはどのようにお考えか。
もう 1 点、旧宮家の志ある方の養子縁組ということであるが、この方々は皇位継承順位に関わってくるというお考えなのか、あるいは、皇族としての活動をしていただくというお考えなのか。この2点を伺いたい。
・まず1つ目について。男系男子で、今お三方がいらっしゃる。悠仁様以降のことについて同じ問題が起きるのではないかという質問だと思うが、男系男子ということでつながれてきた一貫性というものは変えない方がいいと考えている。それは、先程から申し上げたことになるが、悠仁様の子供だけに頼るということではなくて、皇族から一旦離れた、そういう方々がいらっしゃると思っているので、その方たちと議論を重ねるのが一番早いのかなと思っている。天皇陛下の男系男子という一貫性だけ守ることができれば、決して難しいことではないと思っている。
そして、2つ目の旧宮家、養子は賛成ということと、順位に関わってくるということも、一つ目と同じ感じになると思うが、やはり男系の男子でつないでいくために必要であれば、皇位継承の順番に入れていくことは可能とするべきだと思う。私たちが見ている、現在の皇室のお三方だけではないのかなというように、国民として見ているとそこだけであるが、もっと広く見ていらっしゃる方、男系の男子がつながれている方が入ってくることも可能だと考えている。

・ とても集中的に、一生懸命勉強されたと思うが、その前、つまり今回の話が来る前は、皇室の問題について関心をどの程度お持ちだったのか。例えば、同じような世代の方とそういう問題について議論したり、いろいろ意見を言い合ったりするというようなことはあったのか、ということを教えていただきたい。
・ 実際にはなかった。はっきり申し上げて、テレビで見る程度というか、メディアで取り沙汰される程度であった。私の意見の中でも申し上げたが、やはり地方に天皇陛下がいらっしゃったときには嬉しくて、天皇陛下を一度でもいいから見に行きたい。その程度であった。
今回の機会をいただいて勉強する中で、私と近い母であったり、経営者ではなくともいろんな方とお話をさせていただいたときに、いろんな声があった。知ったからこその私の意見と、そうではない意見という中では、国民的なしゃべり方をしていいのか分からないけれども、愛子様がなってもいいんじゃないかと、みんな思っていたのが私の周りであった。そのときに男系とか女系の一貫性の部分は知らないというところが大きくある。私が学んだことをお伝えすればするほど、「ああ、そうなんだ」というふうに、私の周りにいる方々は納得していった。それが本当の話である。

・ 率直なお話を聞かせていただいて、大変参考になった。これも一般国民として感じていらっしゃることを教えていただきたい。地方へいらっしゃった天皇陛下あるいは皇族の方を見て大変嬉しかったというお話をされていたが、今の皇族と国民の距離感は、どう評価されるか。もっと近くなっていいのではないか、あるいは、今くらいがちょうどいい、もう少し近くなった方がいい。その辺の感じを教えていただければと思う。
・天皇陛下も、私の感覚で言うと人である。神事ごとを行う方であっても、人である。そうすると、より近くて、国民と同じような感覚で見てしまうことがあると思う。なので、同じ人間としてという部分と、それでも天皇陛下と皇族とはまた違うというのと、役割が違うのかなと考えている。国民には自由があると思っている。職業選択も表現の自由もあると思っている。しかし、天皇陛下に自由はないのかなと感じているので、そこを取って、例えば、私が男女平等の話をしたが、それだけを皇族と同じように考えるのは少し違うのかなと思う。
ただし、皇室の方々が発言されること、女性であれば女性としての皇室でのお立場であったり、天皇陛下が発せられるお言葉一つ一つが安定をもたらすというふうにお伝えしたが、そのことだけで一国民としては元気が出るのが一般人の感覚ではないだろうか。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、曽根氏からのヒアリングを終了し、約10分間の休憩となった。

(4) 橋本有生氏(早稲田大学法学学術院准教授)からの意見陳述及び意見交換

資料4 : 橋本 有生 早稲田大学法学学術院准教授 説明資料(PDF/522KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように橋本氏から意見陳述があった。

今回のヒアリング項目においては、皇族の婚姻や養子縁組に関わる事項もあるので、本日は、家族法の研究者としての立場からお話をさせていただく。では、お手元のレジュメに沿って進めていく。

まず問1に関して。憲法第1条は、天皇を日本国及び日本国民統合の象徴であるとしているが、この象徴の意味するところは学説上、意見の一致を見ていない。しかし、天皇という具体的な人物から日本国あるいは日本国民統合という抽象的な存在の姿を思い浮かべることができる存在という理解においては、おおむね争いはない。象徴としての天皇は、それぞれの時代を反映した役割を担われているものと考えている。

また、憲法第7条の柱書きから、天皇は国事行為を行うが、象徴としての天皇を全うするためには、国政に関しない限り、国事行為以外の行為、例えば公的行為として外国への公式訪問、被災地への慰問、国が主催する祭典等及び私的行為として私的な地方、都内への行幸、日常生活等も必要であると考えられる。

次に問2に関して、皇族の範囲については、従来、天皇からの血縁の遠近が基本であり、世数により範囲を限定する制度としていた。天皇の嫡男系嫡出の子孫が世数にかかわらず皇族となる永世皇族制を採用することになったのは、明治皇室典範制定以降のことである。皇族の役割や活動については、象徴としての天皇の御活動を補佐し分担することと思われる。

次に問3に関して、まず皇族が減少している原因について。第1に現行の皇室典範においては、皇子及び皇孫に対して父母が婚姻していることを要件とする嫡出性が求められるようになったことが挙げられる。
旧皇室典範が非嫡出子の子孫も皇族の身分を有するとしたことに対し、国民の道徳的、道義的理解の観点から、皇族を嫡出子に限ることとしたが、現行法の制定時において、既に皇位継承資格者の確保が難しくなる点については指摘があったところである。

第2に、皇室典範第9条にあるように養子縁組は禁止されているため、実子として嫡出子の身分を取得する以外には、皇子及び皇孫の地位を得ることはできない。明治、昭和以降に設けられた2つの制限が、皇族の減少の一端になっているものと考える。

次に、仮に男系による継承を維持していく場合は、嫡出性による制限を無くすか、又は養子縁組を認めていくことが方策として考えられる。養子縁組の可否については問9において回答することとして、前者については、現行の民法が一夫一婦制を採用しており、不貞行為は裁判上の離婚原因に該当することから、側室制度への回帰は国民の理解を得難いものだと考える。

問4に関して、まず皇統に属する男系男子である皇族のみが皇位継承資格を有することについて。歴史上、10代8人の男系女子が天皇となった事実は広く知られている。ただし、いずれの女性天皇も皇統に属する男系の女子であり、その子が皇位を継承しても、その父親は皇統に属する男子であるため、男系による皇位の継承は例外のない伝統であるとするのが政府見解である。

他方、過去の法を見ると、女帝の子も男性天皇の子と同様の身分を取得する旨の規定が存在しており、必ずしも全ての年代において、法律が男系男子以外の継承を禁じていたわけではない。

また、政府は、皇位継承資格を男系男子に限るとする理由について、我が国の歴史において皇位は男系男子が継承してきており、このような継承の在り方は国民の皇位に対する意識にも一致していることを論拠としている。したがって、国民感情の推移によっては、女性が皇位継承資格を持つことも十分に考えられると思う。

次に、女性皇族は婚姻に伴い皇族の身分を離れることについて、この件については問
7の方でまとめて回答させていただきたく。

問5及び問6に関して。この問はいわゆる女性天皇、女系天皇についての意見を問うものと思われる。私は、内親王に皇位継承資格を認めるべきであると考えるし、国民意識の変化によっては、女系天皇の可能性も十分に論じる余地があるものと思う。

まず、可否について。女性天皇は過去にも存在しており、伝統の観点からも否定されないものと思われる。また、憲法において、天皇が日本国及び日本国民統合の象徴としての役割を担うとされていることに鑑みても、日本国民は男性のみによって構成されているわけではないので、女性天皇が日本国の象徴として活動することが不合理であるとは思われない。

女性天皇をめぐる議論は目新しいものではなく、旧皇室典範制定時の諸資料にも検討の跡が残されている。例えば、「国憲按第1次案」の第2章、「帝位継承」における第2条及び第4条は、女性による皇位継承を認める内容であった。しかし、この案は、第2次案に至る過程で修正、削除されている。

その陰には女帝否定論者の影響があったとされているが、その論者らは、女帝を支持できない理由として、明確に、「我国現状、男を以て尊しとなし、之を女子の上に位せり」や、「男を尊び、女を卑むの慣習、人民の脳髄を支配する我国に至ては、女帝を立て皇婿を置くの不可なるは、多弁を費すを要せざるべし」とする立場を表明していた。このような考え方は、当時の日本にあっては特異なものではなかったように思われる。

上記の討論が行われた後、明治 31 年に制定された家制度という特殊な家族制度にも同様の思想が見られる。家とは戸主と家族からなる親族集団のことで、戸主は強力な権限を付与され、家を統率する役割を負っていた。その権限は家督相続という制度の下、年長の直系男子が優先して単独で承継することとされ、男子の嫡出子又は庶子がいないなど、限られた条件の下でのみ、女子が戸主となることが許された。

しかし、女戸主となった場合も、婚姻し、夫がその家に入るときは、戸主の地位を留保しなければ、夫が戸主の地位に就くものとされていた。また、当時の民法の下では、女は婚姻をすると法的な無能力者となり、重要な法律行為をするときは常に夫の同意を得なければならないとされていたし、法定夫婦財産制の下では、夫が妻の財産を管理し、婚姻費用の分担は夫が負担することとされていた。

このような家族制度の下で生活していた人々には、憲法上、女帝を第一尊位に置くことは据わりが悪く、また女帝の婚姻によって、「皇婿により高き尊位を置くこととならざるをえない」ため、女性天皇を容認できないという意識が強く根付いていったことであろう。この家制度は、昭和22年に憲法改正が行われるまで、約50年にわたり存続した。

しかしながら現在、年長の直系男子が優先して権限を単独承継することを認める法はないし、夫婦は同等の権利を有し、家族に関する法は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないとされている。

家制度の解体から70年余りが経過した現在、明治の女帝否定論者のような考えは一般に共有されていない。民主国家である日本の国民統合の象徴である天皇位の継承が、旧態依然とした家父長制的男系長子継承主義によっていることは不合理だと思われる。

次に皇位継承順位について。継承には相応の準備期間が必要であるので、その観点から、継承者はなるべく早い時期に決定されるのが望ましいと思う。したがって、長子を優先すべきと考える。

問7に関して。皇族の減少という喫緊の課題に対して、解決策の1つとして皇族女子の婚姻に伴う皇籍離脱の原則を修正することも考えられる。女性皇族が、婚姻後、皇族の身分を保持することは、皇室典範第12条の改正によって可能である。しかし、全ての女性皇族が身分を保持し、皇族が増え過ぎても問題が生じるため、制限を設ける必要があると思う。

皇室典範第15条に鑑みると、女性皇族が婚姻後も身分を保持するとした場合、その者と婚姻する男子は皇族となることができないとする論理的根拠は見出し難いように思う。現在の女性皇族は天皇及び皇族以外の者との婚姻によって皇室を離脱するため、皇室典範第10条の適用がなく、一般国民と同様、当事者の実質的意思と届出があれば、婚姻は有効に成立するとされている。

しかしながら、皇室典範第12 条を改め、配偶者を皇族として皇室に迎える場合は、皇室典範第10条の趣旨に鑑み、皇族男子の婚姻と同様、国の機関たる皇室会議の同意を要件に加える必要があるものと思われる。なお、男性皇族の子孫が皇族になるのと同様、皇籍を離脱しない女性皇族の子が皇族となることも認めるべきであると思う。

問8に関して。皇室の支援の内容を十分に検討する必要があるが、天皇、皇族の活動の負担と皇族の減少という現実問題を、最小限度の調整によって穏当に解決する手段の1つであると思う。

国事行為の臨時代行や摂政の就任ができないのは当然のこととして、元皇族の身分において、公的行為のうち、どの範囲の御支援を頂くかが問題となる。なお、数が増えたことにより御負担となっている活動そのものを減らす、という方法も検討していく必要があると思う。

問9に関して。本問は、旧宮家に連なる男子の皇籍取得の可能性について問うものであると考える。皇室典範がなぜ養子縁組を禁じたのかについては多くの論者が語ってきたところであるので、本日は、家族法を専攻する立場から、養子縁組とはどういう制度なのかを述べることとする。

レジュメには制度の細かな部分に言及する箇所があるが、これは、普通養子や特別養子という制度がなぜ皇族にそのまま適用することができないのかを述べることを目的としている。

まず、養子縁組制度の目的に反しないかということについて。一般に、日本の養子制度は家のための養子法から始まり、親のための養子法を経て、子のための養子法になったと言われているが、日本では現在も成年養子が盛んに行われており、子のための養子法に特化しているとは言えない。

戦前の家制度を前提とした戸主の地位の承継を目的とする縁組とは異なるが、今でも跡継ぎを目的とした養子縁組がなされている。その意味では、家のためや親のためという要素が縁組制度から失われていない。皇族数の減少に対応するためになされる養子縁組もこの一種といえ、縁組制度の目的に反するとまでは言えないように思う。しかし、未成年養子については、監護養育が目的になされることから、養親となる天皇や皇族が未成年者を養育するお立場になられる。

検討が必要であると思われる点について、まず未成年の養子についてお話をしたい。養子縁組によって、養親子間のみならず、養親の血族との間にも法律上の親族関係が生じる。普通養子縁組の場合は、養子となった者と実方の父母及びその親族との間の親族関係は終了しない。他方、原則 15 歳未満の子にのみ認められる特別養子縁組の場合、実親子関係は終了する。

天皇及び皇族が養子縁組することによって養子に皇籍を取得させる場合、皇族ではない実親との間の親子関係が存続することは、いかにも具合が悪いと思う。かといって、特別養子縁組は、実父母が適当な監護を与えることができず、保護を要する児童のために存在する制度であるので、皇室の養子縁組に用いるには適切ではないと思う。この点はレジュメに詳述しているので御覧いただきたい。

したがって、普通養子縁組を基調とするべきではあるが、皇室典範において実親子関係を終了させる旨の規定を置く必要があるように思う。また、未成年養子については自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合以外は、家庭裁判所の許可が必要となっているので、この手続きのままで良いのかを検討する必要があると思う。

他方、成年者の養子縁組については、当事者の社会通念上親子と認められる関係を形成する意思の合致と届出によって成立する。単に他の目的を達成するための便法として仮託されたものにすぎないときは、縁組意思がないため無効な縁組となる。

とはいえ、成年の子と親の関係は多様で、監護養育の必要もないので、社会通念上の親子というのが何を指すのかということについては判然としていない。皇族数の減少に対処するためになされる養子縁組が、便法として仮託されたものに当たるか、当たらないかというのは、議論となるところだと思う。

将来において皇位継承資格者が生まれないという状況が考えられるので、養子について検討の余地はあるが、縁組が禁止されてきたという法の目的に鑑みて、その導入については慎重な議論が必要であると考える。

最後に問10に関して、生まれてくる子の性別によって皇位継承者の確保ができないという事態に陥る制度は、安定的な方策とは言えないように思う。これまでも立法過程において、伝統とともに国民感情が重視されてきた。皇室の制度は国民との信頼関係なしに維持することはできないので、その理解が得られるような方策を検討していく必要があるように思う。

以上で御報告を終了させていただく。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと橋本氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 大変精緻な議論、法律論をしていただき、特に家族法については、普通縁組、特別縁組の細かい御説明が大変勉強になった。また、どういった形で養子縁組制度というものが運用されているのかということについても、いろいろと御説明いただき、感謝申し上げる。
それに関連して質問させていただきたい。お話を伺っていると、最後の問10でも言及されていたが、やはり性別によって様々な制限があるということで、基本的には女性天皇、女系天皇を含めて、賛成のお立場をお話しいただいたと思う。また、この皇室典範第9条の養子の点については、民法上許されている権利が皇族に認められていないということで、皇室典範第9条を改正して養子をできるようにすることについて、今日のお話では、その趣旨が、皇族数の減少に対処するためというものが便法に当たるかということで、議論の必要があるのではないかということも御指摘いただいたと思う。
一方で、性別とはまた別に、少子化、晩婚化ということで、つまり男女を平等にするということによって一定程度の安定的な継承を維持するということとはまた別に、そもそも少子化、晩婚化、そして結婚しない方が非常に増えている。今では大体、男性の50代で4分の1は結婚されない。
そうすると、安定的な皇位継承のため、性別の点のみではなくて、例えば養子縁組というものを制度上、運用上、適切な形で進めるか、あるいは、そもそも皇族には今まで、一般国民とはまた異なる皇室典範による規定によって養子縁組は認められていなかったわけであるから、先生がおっしゃったような問題点を可能な限り解消しながら、一般国民とは違った形での運用、制度設計ができないのか。
その場合には、先程のお話では、慎重であるべきということをおっしゃっておられたと思うけれども、皇室典範第9条を改正して、皇族が養子を受け入れることができるようにするということは、法律論としては特に問題がないと考えてよろしいのか。その辺を教えていただけないか。
・私も、基本的には女系に拡大することによって、養子縁組というのを選択しないでも対処できるのかなと考えていた。
しかし、やはりその皇族の方に子供を産まなければならないというプレッシャーがかかってしまうため、そういった状況になったときには、養子縁組という方法も1つ考えられるなと思い、家族法の観点から考え直してみて、法律上これが可能かどうかということを検討してみた。
養子縁組の制度の目的自体には、先程申し上げたように、抵触しないので、問題ないかなと思う。したがって、皇室典範の中で、今、完全に禁止されているところを、一般の民法とはまた少し違った手続きや効力などを持たせながら、皇室典範の中で変えていく、制度を作っていくということは、法律的にはできるというふうな思いには至った。

・ この女性天皇、女系天皇の問題について、先生の場合、特に女性天皇は当然認めていくべきだという強い御主張があるように拝見したが、やはり現実の問題として、今まで男系男子でつないできており、かつ、皇位継承者が今いらっしゃる中で、先生のおっしゃるような状態にどうやって移行させていくか。なかなかいきなりというのは難しい面もあるように思うが、経過措置というか、その辺について先生のお考えをお聞かせいただきたい。
・男系男子でそのままつないでいくということを決定した現行の皇室典範ができたときと今とでは、国民感情がかなり変わってしまっているというところに着目し、また、直系の承継というものを尊重するという考えも国民の意識の中に根強いというか、あるということを考えたときに、法律、法技術的な問題としては、例えば今、今上陛下がいらっしゃる間に皇室典範を改正するということになれば、そのままそれが効力を発生して、その時代から適用するということは、法律論としてはできるものである。

・養子縁組の話について、非常に分かりやすく説明していただき、理解が進んだ。先生がおっしゃっていた、女性の出産プレッシャーを無くすための養子縁組というのは新たな視点だと思った。
一方で、その場合に、誰を養子縁組の対象者にするのかという疑問も出てくる。皇位継承を、例えば女性・男性を問わず長子優先という形にした場合に、養子縁組で男女どちらを養子とするのか、といった話にもつながってくるのではないかと思う。ここは非常にセンシティブな問題であるので、お答えできる範囲で構わないのだが、養子縁組をする対象者については、先生はどのようにお考えか。
・大変難しい質問である。旧宮家の復活という議論の方々は、GHQによって解体された旧皇族の家から、というようなお話もあると思う。しかし、それに対しては、皇族というものを一度お辞めになられて一般の国民になったにもかかわらず、一般国民とは少し違うという色を残して養子にできるというのは、憲法上の差別に当たるんだという議論も、すごく深く頷けるところである。
これから議論していく必要もあるのだということを、今回思ったところであり、どなたからというのは、まだ私の中で答えはない。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、橋本氏からのヒアリングを終了した。

(5) 都倉武之氏(慶應義塾大学准教授)からの意見陳述及び意見交換

資料5 : 都倉 武之 慶應義塾大学准教授 説明資料(PDF/426KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように都倉氏から意見陳述があった。

私は政治史を専攻している。私が今まで触れてきた歴史的な資料などを通して考えたことを、配布資料に沿って大きく2つの観点から申し上げ、最後に10項目の内容について回答したいと思う。

まず第1に、天皇及び皇室の存在意義という問題である。これは、天皇及び皇室が政治に関わらないという立場から、日本社会にもたらす緩和力にあると考える。その意義を根本的に損なう可能性があるので、政争に巻き込まないよう十分な注意が求められる。

そもそも天皇及び皇室の存在は、人間社会に必須の普遍的なものではない。天皇は、大日本帝国憲法における主権者から日本国憲法における象徴への転換により、戦後は極めて限定的・儀礼的で、実質的な権能を有しない消極的存在であることに意味があったが、平成期は法的位置付けが曖昧な公的行為の充実により、象徴としての在り方に積極性が生まれ、それを多くの国民が受け入れた。戦後の昭和天皇及び現上皇の 75年にわたる蓄積により、民主主義と皇室の共存の伝統と価値が培われたと考える。

では、天皇が日本国憲法に規定され存在することにどのような意義があるか、より明確に言えば、国民にどのようなメリットがあるのかを改めて考えてみたいと思う。福沢諭吉の2つの著作、「帝室論」及び「尊王論」は、明治憲法制定前に書かれ、タブーを廃し、皇室を絶対視する立場からは距離を取り、世俗的・常識的な論じ方で一貫しており、参考となると考えたので、ここに御紹介したい。

これらの著作は、戦後間もなく象徴天皇の在り方を模索する過程で、昭和天皇及び当時の皇太子、現上皇が参考にしたことが知られている。天皇を置くことの効用は何かということであるが、「帝室論」・「尊王論」は、「帝室は政治社外のものなり」として、皇室を現実政治から最大限遠ざけることの重要性を繰り返し強調している。天皇の権威が、誰もが否定し得ない後ろ盾として政治利用されると非常に危険であり、一たび何らかの政治的判断に利用され、それが国民に不興を買う政策であったとしたら、不満が皇室に向き、「不平怨望の府」となってしまうと指摘している。この会議の課題についても、皇室を政争に巻き込まないという視点は、十分注意が必要であると考える。

福沢の2つの著作は、皇室を現実政治の争いから最大限遠ざければ、その存在は「経世上の大利益」、つまり社会に大変役に立つ、あるいは役立つように国民が位置付けていくべきであるというように説き、次のように役立つ点を説明している。

第1に、政治は人間社会に物質的・制度的な側面から働くが、政治家の闘争は暑い夏や寒い冬のように激しいもので、国民に対する働きは水のように冷たいものである。その結果、杓子定規な法理では解決されない多くの不満を国民が抱えることになる。

その満ち足りない精神的・感情的な側面をケアする働き、同時にまた社会の発展を奨励する働きを、皇室が担っていると説いている。これに関連する資料として、末尾に資料1・2・3を付けている。特に資料3は、福沢がこの問題をいかに世俗的に説こうとしたかということが表れている資料かと思う。

また第2に、日本社会の多種多様な分野で努力している人や、見返られることの少ない人々を見守り、励まし、褒める存在という、政治の目の届かない、別の言い方をすれば票にならない機能を持たせることで、皇室を政争の世界から独立して社会の安寧のために働くもの、そしてその結果として社会の発展を促進させ、ひいては国民の幸福に資するものとして位置付けている。

政治だけが国家としての権威を代表すると、最新の学問や教育、文化、芸術など、あらゆる分野の奨励が政争の具となり、政治的忖度の対象となり、様々な弊害をもたらすことを予見しているというふうに見ることができると思う。

政権が幾度交代しても変わることなく継続されるこの役割は、過去の長い歴史を背景とした日本国の現在及び未来を代表する存在としての皇室固有のものである。政治家を始め、一般の国民には代替できないその特殊な役割を担う地位は、今後新たに創出することができないもので、それを毀損しないために、繰り返すが、現実政治の政争に巻き込まない配慮というものが重要であることを強調したいと思う。

皇室はなぜ尊重される存在なのかという点であるが、福沢は、天皇権威が絶対性を帯びることがもたらす危険性を念頭に、天皇の権威の由来を超自然的、超人間的に説明する神権主義的にではなく、世俗的・常識的に解釈しようとする。「尊王論」では、天皇の「神聖」性の由来を、日本国内無数の家族の中で「最古最旧」の家族であることに求め、それが国民の「尚古懐旧の情」、つまり古いものを大事に残しておこうという気持ちに訴えるから、尊皇の情があつい特定の人々だけでなく、広く日本国民一般に価値が認められると説いている。

世界中の人々が至宝として珍重しているものをいろいろと例を挙げて分析し、それらは全く経済上無用の長物であるが、実用と縁がなければないほど、いよいよ人に尊ばれるのが世の常であるということで、大家が書いた書画であるとか、「遠国の奇物」であるとか、「寒村の老松」などを例に挙げて、こういうことを説いている。これが「尚古」、古きを尊ぶ情であるというふうに説明し、生きていないもので価値があるのだから、生きた人、天皇・皇族に価値があるのは当然であると。すなわち、希有な珍しい古さを有するから、日本を代表する権威として尊重されるのであると。非常に乱暴な理論だが、明快な説明であると思う。

古代より父方だけの血統をつなぐというルールで継承されたことが、天皇の家族が別格扱いされる希有な珍しさであり、歴史上も各時代の日本の同時代の一般的な家の継承の在り方と必ずしも軌を一にしてきたとは言えず、その特殊性こそが別格扱いの根拠となっているのではないかと考える。この希有な珍しさが、他の拮抗する権威の出現を抑え、中立性や唯一性を担保したと見るならば、そのような歴史の蓄積が、近代における主権者としての天皇という例外的な一時期を除いて、再び回帰すべき象徴天皇という在り方を用意したということができるのではないか。

現在の皇室の姿は、現代人の家族観や男女観からの乖離は否定できない側面があるが、政治が解決すべき現代日本全体の社会的課題、これを、本来、希有な珍しい古さを由来として尊重されてきた皇室に担わせるという発想は安易であり、政治の責任転嫁とも言えるのではないかと思う。

もし今日の一般常識に皇室を対応させるのであれば、世襲そのものこそを排すべきことを志向することになる。憲法に規定されたその制度の存続を前提に、その特殊性を認めるのであれば、中途半端な制度変更は、その別格扱いの由来を失わせることになるという見方もできると考える。

そうすると、そもそも天皇を置いていること自体に意味が無くなるという結果につながるのではないか。戦後の皇室は、一般国民の家族の在り方に対応して、自主的に旧来の伝統を変更し先進性を示したこともある。歴史性が重きを成す皇室においても、男女や家族の在り方は、常に伝統とともに革新性も国民から期待されることを念頭に、民間との絶え間ない対話の中で、継続的に工夫と模索を重ねていくことが大切であると思う。しかし、それは同時に日本国民一人一人が向き合い体現していく課題でもある、という点を改めて確認しておきたいと思う。

次に公務の在り方についてであるが、これは常に緊張感が必要であるということ、そしてそのために皇族を日常的に支える民間の参与などを強化する必要があるのではないかということを申し上げたいと思う。

上述した目の届きにくい人々を見守り、励まし、褒めるといった天皇の行為は、いわゆる公的行為に対応するわけだが、これは法的位置付けが曖昧であることが指摘されている。だからこそ、法理が対応しない、福沢の言う「情」の側面に働くとも言えるわけだが、公務の選択は、事実上、天皇及び皇族自身の意思に委ねられる形となり、無制限な拡大の可能性がある。また、政治からの距離の取り方についても歯止めがなく、天皇及び皇族自身の判断に事実上任されることになる。したがって、常に慎重さが必要であり、抑制的でなければならない側面があることに十分な注意が払われる必要があると考える。

現代においては、皇室にどこまでも仕えるといった側近は生まれにくく、天皇及び皇族の日常の良き相談相手となり、家族の在り方や公務の在り方、情報発信の在り方なども含め、日頃から心おきなくコミュニケーションを取りつつ相談できる人々を増やす必要があるのではないか。

現上皇にとっての小泉信三、安倍能成、坪井忠二ら東宮職参与の在り方などを参考に、参与、アドバイザーの強化が必要であると考える。これは上述の公的行為の在り方のバランスを保ち続けていく上でも極めて重要なことで、その人々は、必要と信じるときには厳しいことも直言できる関係を天皇及び皇族と構築する必要があると考える。

現在の天皇及び皇族の日常の対応には、宮内庁職員が業務として従事しているが、その重職は、外務省や旧内務省系の官庁出身者が多く担っているように見受けられる。上述した民間人の参与に求められる内容は、官僚機構の職務には必ずしもなじまないものであり、皇室と国民、皇室と官僚機構の間をそういった人々が橋渡ししていきながら、公的行為の範囲は適度な緊張感の中で模索され続けていく必要があると考える。

資料4として、皇太子時代の現上皇に対して、東宮職参与であった小泉信三が、日常的にどのような厳しい言葉をかけていたかが分かる資料を添付した。日頃の生活の在り方、マナーなどについても非常に細かい注意事項を口にしていたことが分かる。

第2に、安定的皇位継承確保に当たっては、①皇位継承の選択肢を増やすこと及び②正統性の疑いを無くすこと、この2つの視点のバランスが重要であるということについて申し上げたいと思う。

安定的皇位継承確保を検討する上で、①次の天皇の候補が多くいること、がまず最大の焦点である。この点、現在の皇室は男系男子による継承を求められながら、極めて限定的な選択肢の中で家族を形作っている。天皇及び皇族が将来の自身の家族をどのように作っていくかについて、今少し家族の在り方の選択肢を拡大し、模索する時間があってもよいのではないかと考える。

この①の視点で見落とされがちなのは、大きな制度変更が正統性に強い疑義を生じる可能性を持ち、一見①の意味で安定しても、結果的に②の意味で安定性を根本から崩し、憲法に規定された象徴天皇の在り方そのものを極めて不安定化させる可能性を持つことである。法理論上、皇位につける方が安定的に存在するようになっても、皇位につく者の正統性に疑問を生じて国論を二分し、極端に言えば、異なる天皇を担ぐ勢力が誕生したりするような事態さえ生じかねない。それが慢性化すれば、皇室に対する「国民の総意」が失われていき、さらにはその疑義も世襲されていくことで、後代では挽回し難い状況を生むことさえ考えられる。

したがって、②の側面も、象徴天皇の在り方を安定的に維持していく上では看過できない極めて重要な要素であり、まず第一に、男系での継承を継続する模索がなされてよいというふうに考える。

一方で、世襲のみを要件とする日本国憲法は、女性天皇及び女系天皇を容認し得ると考える。女性天皇については、配偶者やその子供をどのように遇するかという点での課題が多いと考えるが、その点を含め法的な整合性が取れれば容認されてよいと考える。しかし、②の視点の安定性及び現在の皇族本人の予見可能性の観点からも、現状では男系男子優先が妥当と考える。

男系継承模索の方途が尽き、他に選択肢がないときの最後の選択肢としてならば、女系天皇は容認されてよいと考える。他の選択肢がないときには、おのずと十分な国民的な合意も醸成されていき、②の問題は緩和されると考えられる。いずれにしても、正統性に疑義を生じさせないよう、泥縄式の制度変更は避けることが望ましいと考える。

国民の理解が得られることは極めて重要だが、現在のところ、女性天皇や女系天皇については正確な理解が進んでいるとは考えにくい状況である。また、皇室に関する国民感情を左右する報道は近年ことのほか激しく、5年前、10年前の皇室に関する報道と比較すれば、内容の変転、振れ幅がいかに大きいものかが分かる。将来の天皇という、50年、100年を見渡す議論において、一時的な風潮や、現実政治の担い手たちの権力闘争に左右される、すなわち政争の具となることを避けることは、慎重の上にも慎重な配慮が必要であると考える。

以上を踏まえて、聴取項目への当てはめを次のとおりに示したいと思う。

1番、天皇の役割や活動についてどのように考えるかという点だが、国事行為に加え、適切な範囲を図りながら、公的行為を通して国民の和気を催させる緩和力として働くことが期待されると考える。

2番、皇族の役割や活動について。憲法上の天皇の役割との整合を図りつつ、天皇の役割を分担し補佐する存在であると考える。婚姻によって皇籍を離れる可能性がある女性皇族の役割に対しては、過小評価する向きがあるが、一般国民にはなし得ない価値を正当に評価しないものと言わざるを得ない。天皇の一身においては十分に時間や労力を割けない深度での対応などを付加するものとして、積極的に位置付けられてよいと考える。ただし、適切な緊張感が必要であることについては10番で述べる。

3番、皇族数の減少について。上記の役割の継続及び皇位継承資格者の確保、さらに天皇のそばにあって日頃から支える存在として、一定数の皇族は必要であると考える。そのため、女性皇族が本人の意向を含む一定の要件の下で皇族に残れるなどの仕組みも検討されてよいと考える。しかし、現在の公務全てを皇族が直接に担い続けるべきかどうかは検討の余地があり、皇族の身分を離れた元皇族やその周辺の由緒ある方々が、一般国民のままそれを補佐することも可能と考える。

4番、男系男子のみが皇位継承資格を有することについて。血統を最重視した男系継承というルールは、これまでも必ずしも日本人の家族の在り方を投影したものとは言えない特殊なものであり、その特殊な継承が伝えられた長い年月が、天皇の姿を通して意識され、日本の歴史を象徴すると考えると、これを単に今日の家族像との不整合から排するという結論には、端的にはなし得ない重みを有していると考える。我々誰もが血をつないで存在しているわけだが、長い年月の継続的特殊性を有するからこそ、皇室を通して歴史が意識されると考える。しかし、皇位を継ぐことだけが皇族の役割ではなく、女性皇族の婚姻による皇籍離脱の本来の制度趣旨が、皇族の増加抑止という側面を持つと見るならば、現状に鑑みて、女性皇族が婚姻後も皇族身分を保ち得るように限定的に制度を改めてもよいものと考える。

5番、内親王・女王に皇位継承資格を認めることについて。皇位継承資格を男系女子に拡大する女性天皇は、法的な条件が整えば容認に賛成であり、将来的には皇位継承を長子優先とすることも選択肢であろうと考える。しかし、現行制度の下で過ごしてきた現在の皇族に適用することは、皇族本人の予見可能性などの面からも不適切で、新制度施行前の時点において現存する皇族間においては、新制度下においても男系男子が優先されるべきであると考える。

6番、皇位継承資格を女系に拡大することについて。様々な可能性を想定しておくのが政治の責務であり、全ての選択肢の見通しが立たなくなってから改めて女系を容認するのでは、かえって正統性に根深い疑問を生じさせる。他の手だても尽くした上で、優先順位を最後とした選択肢として女系継承の道を確保しておくことも、今後の在り方であると考える。

7番、内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについて。公務の分担は皇族を離脱してからでも可能と考えるが、本人の意向を含む一定の要件の下で皇族の身分にとどまる選択肢があってもよいと考える。ただし、皇族数が増大し過ぎない工夫が必要であると考える。

8番、元女性皇族が皇室の活動を支援することについて。その血統が活動の根拠であり、その活動にふさわしいという国民的理解を与えているわけであるから、新たな称号などは不要で、元女性皇族の方が皇室の活動を支援することは可能と考える。元皇族やゆかりの家などにおいても、既にそれぞれふさわしいと認識される方は様々な役目に就かれている実情があると理解している。

9番、旧宮家の問題であるが、皇室は、家の形式的な存続ではなく父方の血統の連続を重視してきたことや、女性は婚姻により皇族となるが男性は供給され得ない現行制度の在り方に着目するならば、抑制的な運用の下で、血統の連続を維持するための民間からの養子、これは血縁の近い皇統に属する男系男子を想定しているが、これを可能にすることも非現実的ではないと考える。ただし、安定的皇位継承確保のための最小限度にとどめられるべきで、宮家の増設などの形をとることは望ましくないと考える。皇位継承資格は次代以降に認めることが自然と思われる。制度設計には十分な検討を要するが、皇族の家族形成に選択の幅を与えることは、安定化には大いに資すると考える。

10番、その他の方策。間接的な対応ではあるが、日頃より身辺の対応をする宮内庁職員のほかに、参与、アドバイザーなどの形で、日頃より身近に皇族に接し、腰を据えて相談役となる民間の人々を厚くする必要があると考える。将来を見据えた行動の在り方、国民に対する情報発信、さらには政治との適切な距離や公的行為の適切な範囲の模索などは、皇室と国民の安定的な関係性の持続に不可欠だが、現在非常に手薄となっている感があり、検討が急務であると考える。

以上である。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと都倉氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 伝統をどのように我々が受け止めるかということと、今の時代に合った国民感情にどのように寄り添うかということの両者について、見事にバランスを取ったお話で、説得力があり、今ある制度をいかに尊重しながら進めていくかという点に感銘を受けた。
最後におっしゃった「参与」についてお尋ねしたい。いかにして率直な相談ができるアドバイザーを据えるか。イギリスの場合、女王秘書官・国王秘書官が非常に重要な役割を担っているが、比較的地位が高い貴族階級が就く場合が多い。日本のような貴族制がない国で、具体的にどのようにして、公務員ではない形で、参与、アドバイザーを得るかということについて、もしも何か知見があれば御教授いただきたい。その方々が非常に好ましい方であれば、安定的な皇位継承にも非常に有益だろうと思う。
・ 非常に難しい問題だと思うが、私は、過去の例としては、小泉信三、安倍能成、坪井忠二という3名を挙げた。小泉信三は経済学者であり、そして慶應義塾の塾長を務めた教育者である。安倍能成は哲学者であり、学習院長などを務めた、そういう意味でも教育者である。坪井忠二というのは地球物理学者、科学者である。だから、非常に幅広い方々が選ばれている。
選ばれた経緯は必ずしも明確ではないが、皇室の意向、こういった方面の方が欲しいというようなことも参考にしながら、やはり身近に接している方々が相談し合いつつ選んでいったというふうに理解される。政治家や官僚、周りの方々がいろいろと知恵を絞りながら打診をして、了解を得ていったように聞いている。
非常に難しく、こうすれば選べるというものではないと思うが、幅広い方々を身の回りに置くべきであるという中で、関係者が工夫してその輪を広げていくということしか、今の時点では言えないのかなというふうに思う。

その後、有識者会議メンバーから次のような発言があった。

・ 質問ではなく感想であるが、今のポイントは、私も非常に大事だと思う。もちろん皇室と国民との距離感は非常に大事だが、同時にやはり、緊張感のある公務というものを常に志向していただくということ、そのためのアドバイザーが重要だと思う。ある意味では非常に火急の課題ではないかなと思う。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、都倉氏からのヒアリングを終了した。

(6) 第6回会議における有識者ヒアリング対象者

○ 資料6「第6回会議における有識者ヒアリング対象者(案)」 について、事務局からヒアリング対象の候補者の紹介を行い、資料6に記載の4名の方からヒアリングを行うことを決定した。

資料6 : 第6回会議における有識者ヒアリング対象者(案)(PDF/157KB)

○ 座長から、
・ 次回のヒアリング対象者を含め、合計21名の方からヒアリングを行うこととなり、第1回会議で意見が出された若い世代や女性の方なども含め、多様な立場、考えを聴取できたと思うので、ヒアリングは次回を最終回としてはどうか。
との提案があり、了承された。

(7) その他

第6回会議については、6月7日(月)17:00 から開催することとなった。

 

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