私たちは、皇室の伝統的な男系継承を確保する「養子案」の早期実現を求める活動を進めています

(議事録全文)『安定的な皇位継承の在り方を検討する有識者会議』(第4回・令和3年5月10日)議事次第・配付資料・議事録

有識者会議(令和3年)

『安定的な皇位継承の在り方を検討する有識者会議』は通称であり、正式名称は『「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議』です。

議事録、資料などは次に示す内閣官房のホームページに掲載されていますが、Webでの閲覧や検索に適さないPDF形式であるため、当HPにてHTML形式に整形しなおしたものを掲載し、メディアによる切り取り・偏向報道を経ていない1次情報を広く国民の皆様に知っていただきたいと存じます。

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議|内閣官房ホームページ
内閣官房,「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議

議事次第

第4回 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議 議事次第

日時:令和3年5月10日(月) 16:45~19:00
場所:総理大臣官邸大会議室

議事

○ 開会
○ 有識者ヒアリング
 ・岡部 喜代子 元最高裁判所判事
 ・大石 眞   京都大学名誉教授
 ・宍戸 常寿  東京大学教授
 ・百地 章   国士舘大学特任教授
○ 第5回会議における有識者ヒアリング対象者
○ 閉会

配付資料

資料1 : 有識者ヒアリングの開催について(PDF/124KB)

資料2 : 岡部 喜代子 元最高裁判所判事 説明資料(PDF/441KB)

資料3 : 大石 眞 京都大学名誉教授 説明資料(PDF/362KB)

資料4 : 宍戸 常寿 東京大学教授 説明資料(PDF/284KB)

資料5 : 百地 章 国士舘大学特任教授 説明資料(PDF/2,308KB)

資料6 : 第5回会議における有識者ヒアリング対象者(案)(PDF/161KB)

参考資料: 所 功 京都産業大学名誉教授 補足説明資料(PDF/134KB)

議事録

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議(第4回)議事の記録

1 日時:

令和3年5月 10 日 16:45~19:19

2 場所:

総理大臣官邸大会議室

3 出席者:

・「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者 会議メンバー

大橋 真由美 上智大学法学部教授
清家 篤   日本私立学校振興・共済事業団理事長 慶應義塾学事顧問
冨田 哲郎  東日本旅客鉄道株式会社取締役会長
中江 有里  女優・作家・歌手
細谷 雄一  慶應義塾大学法学部教授
宮崎 緑   千葉商科大学国際教養学部教授

・政府側出席者

杉田 和博  内閣官房副長官
岩尾 信行  内閣法制次長
山﨑 重孝  内閣府事務次官(皇室典範改正準備室参与)
池田 憲治  宮内庁次長
大西 証史  内閣総務官(皇室典範改正準備室長)
溝口 洋   内閣審議官(皇室典範改正準備室副室長)

4 会議の内容

(1) 開会

座長から、本日の会議について、以下のような説明があった。

・ 本日は、第3回目の有識者ヒアリングを行う。
・ 元最高裁判所判事の岡部喜代子氏、京都大学名誉教授の大石眞氏、東京大学教授の宍戸常寿氏、国士舘大学特任教授の百地章氏の4名の方から順に御意見を伺う。
・ 各ヒアリング対象の方から20分程度御意見を伺い、10分程度意見交換を行う。
・ 意見交換では、第1回会議において決定した10の聴取項目にない事項も自由に質問していただいて結構である。

(2) 岡部喜代子氏(元最高裁判所判事)からの意見陳述及び意見交換

資料2 : 岡部 喜代子 元最高裁判所判事 説明資料(PDF/441KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように岡部氏から意見陳述があった。

「聴取事項に対する回答」というレジュメの順番に従って説明をさせていただく。

問1に関して、天皇は日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴である。国事行為をなさるほか、国事行為ではなく、かつ純粋な私的行為ともいえない行為を数多くなさっておられる。このような行為をなさることによって、天皇は国民と共にあることを示され、象徴という抽象的な概念を国民の目に見える形にされ、国民の感得できる具体性を持った形にしてこられた、と理解している。

皇族方は、このような天皇の行為を助け、また周囲にあって天皇をお守りし、皇位継承の資格を有する者として、将来天皇としての役割を果たすこともできるよう、日々御準備をなさっていると思う。

このような天皇及び皇族の方々の活動というのが、国民の皇室に対する尊敬と親愛、そして支持の基盤になっているのではないか。

このような皇族方の活動は、そのような意味で大変重要な意義を有するのであり、皇族方の減少により、このような貴重な活動をなさる方が減少し、活動がなかなか思うに任せないというような事態は、皇室の存続にとって憂慮すべき事態である。早急に改善を図る必要があるのではないかと思う。

問4と問6については、まず女系天皇に関する問題がある。

まず、女系天皇は憲法違反であるとの説を採ることができない。というのは、平成17年の「皇室典範に関する有識者会議」報告書に記載されているとおり、「憲法において規定されている皇位の世襲の原則は、天皇の血統に属する者が皇位を継承することを定めたもので、男子や男系であることまでを求めるものではなく、女子や女系の皇族が皇位を継承することは憲法の上では可能」と考える。また、立法者の意思もそのようであったと理解している。

そこで、ここでは、女系天皇を認めることは憲法違反ではないということと、後に述べる私の今回の意見である、男系女子に皇位継承資格を認める、ということまでの考え方の道のりを少々申し述べる。

皇位継承は世襲であり、つまり、皇位継承の根拠というのは血縁ということになる。これは、血縁には原則として人智が及ばないということが求められているからである。生まれながらにして天皇になるべく決定され、その資格があるということになるわけである。そして、そのような者として育てられていく。こういうことで、世襲というものが皇位継承の正当性として認められているということになるのだと理解している。

そして世襲を要求されているのであれば、血の濃いほうが皇位に近いと考えるのが自然である。血の濃さという点について見れば、男女の区別はない。血の濃い女性皇族と、非常に血の薄い男性皇族を比べたとき、血の濃い女性皇族に親愛の情を抱き、また尊敬の念を持つのが国民一般の気持ちであり、これが皇位の根拠であるとすれば、そのような人が天皇になるというのは、天皇制の支持の基盤ということが言えるのではないか。

特に、養子や法律によって皇族となったということであれば、人智の及ばないというものではなく、人の行為によってその地位に立ったということになるので、その地位に立った方への尊敬とか親愛の情というものを、国民一般が、自然血縁の近い者以上に持っていただくことができるのかどうかというところに、私としては疑問を感じる。基本的に血の濃い者が皇位継承資格を有するというのが世襲原則からして自然ではないか、と考えている。

ただ、だからといって、すぐにこの段階で女系天皇を認めるべきかということまでは、現段階では、私としては躊躇する部分がある。男系男子のみという御主張というのは、天皇制についての考え方と伝統に基づいた主張と理解している。

伝統というのは、これは男子のみではないが、男系女子も含めて、男系ということには、それを続かせる現実的な背景や事情があったということが言えると思う。そういう事実があって、そういう制度が長続きしたと言えるわけで、それは、日本においては基本的に男性が権力を持っていたということがあると思われるし、事実、そのような主張もされている。

それがずっと続いてきているが、今日はいかがかということになると、男女平等という世の中になったと言われているが、基本的には男性の力が強い世の中であると。女性の力も徐々に強くなっているといいつつ、それは非常に過渡的な時期と言えるのではないか。

世の中がそうであったとすると、女性が、あるいは女系天皇が天皇として国民の尊敬を得られるのかということを男系男子説の方は心配されているのかもしれないし、あるいは女性天皇、女系天皇、内親王、女王の配偶者たる夫が有力となって権力を持つ事態があり得るのではないか、というようなことを懸念しているのかもしれない。そこまではっきり言っていらっしゃるわけではないので、理解が間違っていたら申し訳ないと言うしかないが、そのような懸念を持っておられるのではないかと思った。

それで、そのような懸念というのは、ひょっとすると、国民が思っていることかもしれない。そこのところの事実がよく分からないので、そういうことがあるかもしれないというふうに推測するだけであるが、そのような懸念に対してどう考えるのか。男女平等で割り切るのか、何らかの手だてを採るのか、採る必要がないのかあるのか、採るとしたらどのような方法によるべきなのかなど、きめ細かく考えることが必要なのではないか。そのあたりのことを検討する必要があるのではないかと思う。

そこで私としては、今の段階では男系を主張する論者からも理論的には認めてよいはずであるところの男系女子の皇位継承資格を認めるということが、多くの人の賛同を得られる可能性もあり、円満に皇位継承者を増やす方策ではないかと考えており、そのように提案させていただいた。

しかし、男系女子の皇位継承資格を認めるとしても、各種の検討をしなければならない事項もあり、ある程度の時間を要することになると思う。しかしながら、現在の皇族の減少を防ぐという課題は喫緊の事態であると思う。皇位継承とは別に、女性皇族が婚姻によっても皇族の身分を失わないとすることが、皇族の減少を防ぐ方策として取り急ぎ必要なことではないかと考えている。

伊藤博文が「皇室典範義解」の中で、現在の皇室典範 12 条と同じ内容を持つ旧皇室典範44条の趣旨を「女子の嫁する者は各々其の夫の身分に従ふ。故に、皇族女子の臣籍に嫁したる者は皇族の列に在らず。」と説明している。家制度下では原則として、婚姻すると妻は夫の家に入るから、皇室に残ることはできないのだ、という理屈である。

明治民法あるいは旧皇室典範というのは家制度、ここは難しいので、明治民法が家制度を採っていたのは確実であるが、旧皇室典範についてはどうかというと、家制度とはっきり言っているかどうかはともかく、少なくとも家制度的な、天皇による監督権のある家というものを考えていたということは確かなわけで、そういう制度を採っていた。

しかし現在は、旧典範40条、天皇の監督権であるが、これがなくなっており、なくなる経緯からしても家制度を採らないから、というようなことが理由になっており、現在は典範も家制度を採っていないということが言えると思う。

以下、皇室典範と民法の解釈論ということになるが、まずは解釈の原則について述べると、皇室典範と民法とでは、憲法の下にあって議会が議決するものであるから、効力が同じなわけである。同じ位のところにあると。そして、皇室典範は皇族、皇室に適用され、民法は一般国民に適用されるというわけで、皇室に関することは典範を適用し、それ以外については民法を適用すると、こういう区別になっている。これは大体どの教科書を見てもそうなので、大丈夫だと思うけれども、そういうことで、そのような解釈の原則でこれからの立論がされている。

民法では、婚姻というのは相互に社会的に夫婦関係といわれる関係を結ぶ意思の合致によって成立する契約である、というふうに性質付けられている。この点は憲法24 条が明文化しているし、実は効果の点ではいろいろあるが、明治民法も契約だということ、それから皇室典範についても、現皇室典範も旧皇室典範も、婚姻というものは、いろいろ制約はあっても意思の合致である、というところは変わってない。ずっとそれで来ているということになる。

したがって、婚姻するとどうなるかというと、最も基本的な効力というのは、意思によって両者が婚姻生活をするということである。意思の効果としては、一緒に共同生活をするという効果が生ずるわけで、婚姻の効果として、夫の家に入るとか、夫の家に入らないとか、妻の家に入る入夫婚姻とか、そういう効果はない。家制度を採ってない以上、共同生活をするということに尽きるわけである。

そうすると、特に妻が皇族で夫が皇族ではない人が婚姻しても、妻が当然皇族でなくなる効果が生ずるというような根拠はどこからも出てこない。つまり婚姻したこと自体によって、皇族であるか皇族でないかというような効果が出るような規定には現在はなっていないわけである。

だから、皇室典範の12条を改正すれば、女性皇族が一般男性と婚姻しても皇族にとどまることは、理屈の上で可能だということになる。皇室典範12条の趣旨を、入夫婚姻がないからと説明した文献もあるが、それは過渡的な説明であり、議会ではそういう説明はなされておらず、女系天皇を認めないことの影響である、と説明されている。どういうふうに影響しているのかというところの説明がないので明確ではないが、そこの趣旨を推測するならば、女性天皇あるいは女系天皇を認めないから、当該女性皇族やその子が皇位を継承しないということが確実である、したがって、女性皇族を皇族に残す意味がないということになるのではないかと考えられる。

しかし、今日求められているように、女性皇族を皇族に残す意味があるのであれば、皇族の身分を失わないとすることは可能である。また逆に、女性皇族と婚姻した配偶者について、当該配偶者が女性皇族の家に入るという観念もないので、当然に皇族になるということにはならない。法改正によって皇族になる者とすることもできるし、そうしないこともできるということになる。

ただ、法改正によって皇族になるという考え方を採った場合には、皇室典範15条の趣旨との関係が問題になる。そこで、皇室典範15条の趣旨であるが、この趣旨については、平成17年「皇室典範に関する有識者会議」報告書に大変きちんとした説明がなされている。「いったん皇族の身分を離れた者が再度皇族となったり、もともと皇族でなかった者が皇族になったりすることは、これまでの歴史の中で極めて異例なことであり、さらにそのような者が皇位に即いたのは平安時代の二例しかない。」。この二例は特殊な事例であるという注意書きがある。「これは、皇族と国民の身分を厳格に峻別することにより、皇族の身分等をめぐる各種の混乱が生じることを避けるという実質的な意味を持つ伝統であり、この点には現在でも十分な配慮が必要である。」とされている。

この実質的な15条の意味というのは、今回問題になっているような皇室の安定的な継続・永続性というものを考えるときに、かなり重要なのではないかと私は考えている。仮に、女性皇族と婚姻する一般国民たる配偶者に皇族の身分を認めるとなると、一般人が皇族になる唯一の機会が婚姻だということになるから、婚姻というものに様々な思惑の入り込む事態があり得るところとなって、いろいろないさかいが生ずるということもあり得る。ないといいけれども、あり得る。それは安定的な皇室の存続にとって、弊害が出てくる可能性もあるのではないか、という問題があるかと思う。

一方、婚姻の効果について考えてみる。婚姻すると、夫婦に同居協力扶助義務が生じる。配偶者に皇族の身分を認めなくても、同居協力扶助義務を履行することは可能である。夫婦で何らかの活動をなさる際にも、皇族である妻と皇族ではない夫とが協力してその活動をすることに支障はないはずである。つまり、夫婦の協力の仕方の問題ではないだろうか。

民法では、夫婦は、夫又は妻の氏を称することになっている。しかし、皇族には氏がない。皇族に氏がないことは、皇室に関する慣習法ともいえるもので、皇族の氏については皇族に関する皇室典範の方になり、民法の適用がない。したがって、同一氏を称することができなくても、氏のない皇族との婚姻であるから仕方がないということになり、別にこれも法的な支障にはならない。夫婦それぞれが婚姻前の名称を称することになると思われる。

また同様に、当該女性皇族の身分に関する事項は、皇室典範の定める皇統譜に記載され、その部分については戸籍法の適用がないから、女性皇族が婚姻しても、皇族であり続ければ、皇統譜に記載され続ける。夫は、自身の戸籍の身分事項欄に婚姻事項が記載されるということになり、これも法的な支障はない。

皇族女性と皇族でない夫との間に生まれた子は、現在の男系男子のみ皇位継承資格があるという制度の下では皇位を継承しないので、皇族にならないのが原則と言える。それでも夫婦は子に対して共同親権を行使することができ、子に対する監護・養育をする権利と義務を有するので、子育てにも法的な支障はない。

そうすると、当該女性皇族について、いわゆる一代皇族となり、なし崩しになるとの批判もあるが、かつての一代皇族は、養子等の人為的な親子関係をつくってなし崩しにしてきたという経緯がある。現在は養子が禁止されていることもあり、また、経済的な側面については皇室経済法の定めるところであるので、なし崩しになるとの批判は当たらないものと考える。

宮家という言い方をされることもあるが、宮号・宮家というのは称号であって、法律上の制度ではないので、婚姻の問題とは別個に考えるべきことかと思う。

この問題について、養子を解禁したらいかがか、との提案もなされている。伊藤博文は、旧皇室典範で養子をすることを禁じた趣旨を「宗系紊乱の門を塞ぐ」ためと述べている。その趣旨は、現在の皇室典範9条にも流れているのであり、現在においても十分尊重する必要がある。世襲という人の行為の入り込む余地のない原則で皇位継承を定めようとしているところに、人為的な親子関係が入り込んでくるとき、様々な人の思惑などがどうしても入ってきて、紛争の種になるということも考えられる。こういうことを防ぐのも15条の趣旨でもある。立法資料に、「養子が有力になると憲法4条の趣旨や本条15条の趣旨に触れてくるおそれもある。」というふうに記載されているとおりなのである。現に、一代皇族がなし崩しになったのも、そのような実例である。少なくとも、一般的に養子をすることを解禁するということは、以上のような理由で相当ではないと考える。

仮に将来、何らかの要因のためにどうしても養子が必要だということになった場合でも、AとBの間の養子というような、個別具体的な養親子関係に限るべきであろうし、これは純粋に身分承継を目的とする養子であるから、最低限、養子となる者について、15 歳以上、養子となるべき者の自由意思が確保されるという要件の必要があるかと思う。

もう一つの考え方として、皇統に属する男系の男子を皇族にする、との考え方もある。この考えだと、皇族とは皇統に属する男系男子であって、法律によって皇族と認められた者ということになる。皇統に属する男系男子であれば、薄い血縁でも法律で認められれば皇族となり得るということになる。これは、天皇との血縁が濃い一定範囲の者という皇位継承の在り方とは異なってくるのではないか。その点を心配している。ひいては、国民と皇族との区別がどこにあるのか、という疑念も起こってこないとは限らない。この意味で、私はその考えには賛成し難いと思っている。

以上のような考えから、今回は喫緊の問題として、女性皇族が婚姻しても皇族の身分を保持し続け、配偶者と子は皇族とならない、ということが現実的で、かつ、最も弊害の少ない方法ではないかと考える次第である。以上である。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと岡部氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 女性天皇は認めるが、女系天皇は認めないというお考えであったと思うが、安定的な皇位の継承という点からすると、非常に不安定な状態が続くという意見もある。先生のお考えは、飽くまで今の時点でのものであり、将来にわたっては、また議論を続けるべきではないかという趣旨か。
・ そのとおりである。今は男系男子であられる皇位継承者が存在している。その間に考えるべきことを考えないと。さっと結論の出るようなものではないと私は思う。もちろん女系というのは理想的であろうが、やはり現実というものを見たときに、皇室の問題は、日本国民のできるだけ多くが賛成するような形で、少しずつ変わっていくというのがあるべき姿ではないかと思っている。
だから、「安定的な」といっても、それがずっと先まで安定していけばいいけれども、その間にいろんなことがあって、安定しないかもしれないわけである。その辺を考えると、「安全」というのも一つ入れたいなという感じである。

・ 養子の問題について、血縁の場合は人智が介在しない一方、養子はそうではないというお考えだったと思う。しかしながら、養子の場合も、あらかじめしっかりと制度として、順位などを定めておけば、恣意的な運用がされるおそれもなくなるのではないかとも考えられるが、その点についてどうお考えか。
・ 私は、血縁というもの自体には男女の区別がないので、女性でもいいではないかという考えである。それを一応の前提として、それでも皇位継承者がいなくなったりして、養子の必要性が出てくるという事態ももちろんあるかもしれないわけだから、そのときにどうするかというのは、おっしゃるように、順位とか、きちんと問題のない形でできるのであれば良いだろう。
しかし、私は、それほどそれは簡単ではないと思っている。それであれば、具体的なAとBの間の養子縁組だけを認めるような、この人ならいいかなという、そういう方が安全だと考えたわけである。ただ、いろいろ工夫によってできるのであれば、別に一概に否定するようなことではないと思う。

・ 女系に拡大することについて、憲法違反ではないが、強固な反対があるのであれば、さらには国民の広い賛同などいくつかの点から、現段階では採るべき選択肢ではない、というお考えだったと思う。憲法論と、血の濃さということをおっしゃったと思うが、これは言い方を換えれば、強固な反対がなく、国民の広い賛同が得られれば、女系天皇に先生も特に反対する特段の理由もないということか。
・ 反対がなければ現段階でもいいじゃないかという御質問であろうが、私は、もう少し考えた方がいいという意見である。今、現に強固な反対があるわけである。だから、強固な反対の方がいろいろなことを言っているわけだが、実質的なところを見て、一体何が言いたいのかというところを考えてみると、今私がお話ししたようなことなのではないかと思う。そういうことは誰も言わないけれども、国民も思っているかもしれないし、そこのところはまだ誰も手を付けてないから、分からないわけである。
しかし、そのあたりをきちんとしなければいけないのではないかということなので、今すぐに、反対がなければいいのかもしれないが、もう少し考えたいという気持ちである。

・ 先生は、女性皇族1代限りでの男系女子の女性天皇について可能ではないかというお話であった。安定的な皇位継承の問題と、国民からどれぐらい幅広く受け入れられるかということで、現行の制度が続けられれば最も望ましいということであると思うが、論点を整理するときに、どういう点を優先するか、例えば長子ということを優先する方もおり、平成17年の報告書ではそのようにしていた。先生は、「血の濃さ」ということを強調してお話をされていたが、そうすると、男系女子の場合の女性天皇と、女系天皇とでは、憲法論上、何か質的な、大きな違いはないとお考えか。
・ おっしゃるとおり、ないと思う。

・ 憲法24条について伺いたい。国民という場合、憲法10条でいう「国民」を考えると、14条の「法の下の平等」などは天皇は別枠という扱いである。そうすると、24条の「両性の合意のみに基づいて」というのも、天皇と皇族とはまた別の存在だと思うが、例えば、内親王に皇室に残っていただくというような場合の婚姻を考えたとき、この 24 条が適用になるのか、憲法と典範との関わりというところを教えていただきたい。
・ 憲法24条の問題は、一応典範の上に憲法があるから、適用はあると思う。ただ、そこにどういう制約を入れ得るかと。今の民法にも制約が全くないわけではない。婚姻年齢などいろいろあるわけで、それが合理的であれば制約は入れられるわけである。そうすると、典範の方はどう考えているのかというと、男女平等も憲法の理念であるから、そこは入れなければならない。しかし、典範は典範で、皇室の、あるいは天皇制の継続というものを考えている。そうすると、それに基づく制約を何でもかんでも入れていってはならないけれども、どこまで制約を入れていけるのか、という観点から議論しなければならないと思う。
・ そうすると、女性皇族の婚姻についても、今おっしゃったような形で考えていくべきだということか。
・ そうである。例えば、具体的には、皇室会議の議を経るかどうかとか、そういうことが考えられる。女性皇族の配偶者を皇族とするなら、さすがに皇室会議の議が必要だろうけれども、皇族としないときはどうするのかとか。まだそこまでは考え切っていないが、そういうことを考えていくべきだということである。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、岡部氏からのヒアリングを終了した。

(3) 大石眞氏(京都大学名誉教授)からの意見陳述及び意見交換

資料3 : 大石 眞 京都大学名誉教授 説明資料(PDF/362KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように大石氏から意見陳述があった。

お手元にはレジュメがあるので、私のほうでは、それを前提にして、少し注意を要することとか、あるいはその他のことをお話し申し上げる。

順番にいくと、まず問1は、なかなか難しい総論的な質問であり、この問に対してはいろいろな立場から答えることができる。ただ、憲法、公法学を専攻する私に与えられた課題から見て、以下では、天皇御一家の中心という意味での天皇、あるいは家族法的なつながりを持つ皇族関係の方々という、いわばプライベートな立場ではなくて、主として天皇・皇族の公的な立場についてお話を申し上げたいと思う。

まず、天皇及び皇族ということになるが、天皇については、レジュメにもあるように、いわば憲法的な機関に着目をした場合と、それから国家的な象徴ということに着目した場合とで、少し論じる論点が違ってくると思う。特に象徴ということで言うと、イギリスではしばしば引用されるが、dignified part というか、尊厳ある要素ということで、19世紀の後半から語られていることである。

問2については、具体的な皇族の役割・活動ということで、国事行為の代行者という側面と、それから皇室の構成員として一般的に求められる役割とレジュメでは書いているが、その前提となることを少しお話し申し上げる。

まず、皇族の憲法上の位置付けというのが、どの憲法の教科書を見てもほとんど書いていない。確かにその概念自体は憲法に見当たらないわけだが、憲法の8条や88条にいう皇室というのは、天皇と皇族を一体として指すというふうに観念されているわけである。

そうすると、皇位の世襲制を定める憲法の下では、天皇の血族としての皇族の存在というのは当然予定されていると言えるのだが、その役割・活動について、憲法は直接に示すところはないと。とはいえ、後で述べるような、憲法は、天皇の国事行為とか、その委任とか、あるいは摂政制度というものを認めており、しかもその担い手となるのは皇族に限られるわけである。そういうことから言うと、憲法及び法令上、皇族にも一定の公的な役割や活動が想定されている、と言うことができると思う。

その上で、レジュメに書いたのが、いわば国事行為の代行者という側面、これには2つ、御承知のように法定代行、すなわち摂政の場合と、委任代行の場合があるということである。

皇室の構成員として一般的に求められる役割・活動というのは、そういう天皇の国事行為・公的な行為などがあるが、それ以外の行為を支えるとともに、天皇が日本国と日本国民の統合、あるいは、津田左右吉先生の言葉を借りれば、「国民の結合」という言葉になるが、そういう統合、あるいは一体性を体現するという象徴的な役割を天皇が十分に果たしていただけるように、国民と皇室の一体感というのをもたらすような行動というのが期待されるのだろうと思う。

もっとも、家族という役割があるから、皇室の構成員には、一般的に求められるそういう公的な役割・活動だけではなく、それぞれの置かれた個々の立場に応じて、具体的な役割・活動に違いが生じてくるということも否定できない。例えば、内廷皇族とその他の皇族とでは、いわば私的なくつろぎの場を提供するという側面、常にそういうくつろぎの場を直接に共有する家族という側面と、そうでない者というのは、やはり少し違いがあるかなというふうに思う。

また、特に皇位継承資格者とそうでない者という立場の違いを考えると、特に継承順位の上位にある方、今現在では男子皇族ということになるが、いわばその次の世代で憲法的な機関としての行為、国事行為を承継するということが求められるわけだから、そのためのいわば見習いというか、訓練というか、俗にいう帝王学というものがよく議論されることになる。

さて、皇族の減少についてだが、大きなポイントは、皇族というのは養子が禁止される。これが第1。それから非常に強い嫡出原則が求められる。これが第2。第3は皇族女子だが、婚姻すると当然皇籍を離脱すること。この3点があるから、どう見ても皇族数の減少の要因がそろっているということになる。

特に皇位継承という面から見ると、今言った中での第1の養子の禁止、それから第2の嫡出原則ということが持っている意味は非常に大きくて、その嫡出に限定する場合には、皇位継承資格者の確保の面で本当に十分なのかという議論が当然にあった。

また、後になっても、内閣法制局の正式の答弁かどうかははっきりしないが、やはりある種の合理性はあるんだと、皇位継承資格者を確保するということから考えると、嫡出者以外にもその範囲を認めることに合理性はある、というような答弁もなされているところである。

いずれにしても、皇族数が減少すると、私なりに考えるに、1つは、皇室会議の構成員となるべき議員2人がちゃんと確保できるのかという問題があるだろうし、さらに多数の参加者が予定されているような会合、例えば午餐会とか晩餐会、園遊会というものにおいて、出掛けていった方がそこに参加した場合に、皇族の方がちょっとしか参加しておられないということになると、そういう意味での歓迎とか交流という意味合いがやっぱり少なくなるのではないか。

特に皇位継承資格を持つ皇族男子ということになると、これは当然のことながら、皇位継承それ自体の危機というおそれが当然に含まれるということになる。そこで何とか手を打たなきゃいけないという話になるが、持続的に、あるいは継続的に資格者を確保するという制度上の要請に応えるには、やっぱり皇統に属する男系男子という要件をどうするかという問題に踏み込むか、あるいはもう一つの、嫡出あるいは嫡男系嫡出という、そこに限定されている要件について考え直すほかはないということになる。

もちろん、単純に数の問題から言うと、皇族男子がどこで生まれるか分からない。たくさん生まれていらっしゃれば、それはそれで幸せなことだということになるが、制度の問題を考えるときに、やっぱりそういう偶然の要素に任せるという議論がなかなかできないものだから、先ほどのように、男系男子というところの問題、あるいは嫡出というところに踏み込まざるを得ないと思う。

もちろん、この第1の要件については、従来から議論があるように、男系の女子への拡大、これは最小限の拡大になるが、もう少し広げると、およそ女系皇子孫への拡大ということが考えられる。

嫡出の問題については、嫡出、庶出で嫡男系庶出への拡大、あるいは一般的な庶系への拡大というものが考えられるが、なかなか明治典範も現行典範も認めていないことから、なかなか非常に難しい問題になるというのが養子の問題である。

本来は、皇后御養子という形で明治8年にもそういう規定がちょっと作られたりしていることから、検討材料にはなるんだと思うが、この養子の問題をどう考えるかということは後で申し上げる。

いわゆる女帝、あるいは女系という問題点については、私どもが学生の頃はそんなに議論する人はいなかったが、最近では割合議論としては浸透しているように思う。しかし、例えば庶出についてどう考えるかという論点についてはどうも議論が乏しい。

その点をまず触れておくと、明治典範は、御承知のように、皇庶子孫の皇位継承を認めたわけである。ただ、そこには当然のことながら、背景としては、若くして、幼くして亡くなる皇子が非常に多かったという側面がある。もう一つは、200年前の光格天皇以来ずっと庶子で、大正天皇も庶子である。そういう事情があったのだと思う。ただ、大正天皇、つまり嘉仁親王は、昭憲皇后のいわば嫡出という形で収まっているはずである。その点は注意する必要がある。

そういうことをいろいろ注意して見ると、いろいろ議論ができるわけだが、現行制度に移行するに際しては、庶出の問題はやはり無理だったようで、その附則第2項にも、現在の皇族は、嫡男系嫡出の者とする、という、いわばみなし規定が入ったということである。これは、皇族のうち本来庶出・庶系であったけれども、それをこういうふうにみなすということで、いわば法律的な擬制が図られたということになるかと思う。

こういう事情であるから、現行典範の制定過程では、「嫡出に限る」とすると、継承者がなかなか十分ではないんじゃないかという懸念が示されたことが記録に残っている。しかしながら、立案者のほうはかなり割り切りをしたようである。庶出子というのは正しい系統ではない、というのが国民の間における今現在の道義心である、昔はそうでなかったかもしれないけど、現在ではそういう道義心がいわば変わってきたんだ、ということを立案者側はかなり強調しておられる。

そうすると、いわゆる正配とか嫡妻のほかに、いわゆる側室を正面から認めるような国民意識は、今は非常に乏しいわけだから、その嫡出要件を外すという議論は、やっぱり生産的な議論ではないのかなと思う。

そこで、問4については、当時の記録を見ても、いわゆる婚姻により当然に皇族の身分を離れるという制度になっているが、最終的には、いわゆる女帝を認めないことと関連している、というような答弁があるぐらいであり、どうもはっきりしない。また、戦後一斉に皇族が皇籍を離れたけれども、その時点では、皇族が 16 方、皇位継承資格者も6方おられたことから、あまり皇族数の減少によるマイナス面への配慮というのは必要でなかったという背景があるかと思う。

そこで私なりに考えると、男系男子に限るという皇位継承資格の問題と、皇族女子の婚姻による皇籍離脱の問題とは必然的に関連するわけではない。また、当時とは状況が異なり、皇族数の減少によるマイナス面ということを考えざるを得ない。そうだとすると、女性皇族が婚姻に伴って当然に皇籍を離脱するという制度は、やっぱり再考される必要があるのではないかと思う。

さて、問5・6について、理由はレジュメに書いてあるので省略するが、ただ、これを考える場合に、現に皇位継承資格者あるいは新規の皇位継承資格者となり得る当事者が複数おられる状況の中では、その中で実現可能な選択肢を追求するということだから、そういうことも念頭に置いた制度設計というものを考える必要があるだろうと思う。

その点をいろいろ考えると、最終的には、やはりかつて有識者会議が提言されたように、資格を思い切って広げるというのが1つの到達点ではあろうかと思う。その場合には、何が一番価値的に重いかということを考えざるを得ないわけであり、少なくとも現行憲法を尊重する限りは、日本国と日本国民統合、あるいは一体性を表すような天皇・皇統の存続自体を優先的に考えるということが大事なんだろうと思う。

他方、しかし、皇位というのは古来、男系のみで継承されていたという伝統がある。これはこれで重い。したがって、それによる継承の可能性が十分にある時点において、先ほどの報告書のように、いわば一挙に拡大するということが政策的に見て最善の方策というふうに考えられるかというと、必ずしもそうは思えない。事実の問題として、従来の制度を変更する場合、現におられる具体的な皇位継承資格者、あるいは対象者の年齢とか、あるいは家族構成を無視して抽象的に議論するというのは、私としては採らないところである。

そこで、段階的にというのが本来レジュメで示したとおりであり、「段階的に」という言い方は言葉がよくないかもしれないが、やっぱり一挙に拡大するというよりも、長い目で見て、いわば二段構成ぐらいにしたほうが収まりがいいのかなと考える。

問7は大体レジュメに書いてあるとおりである。いろいろ注意すべきこともあるが、考え方としては当然あり得るのではないかというものである。

問8は、前もこういう質問があったのだが、現在の私の考え方を申し上げると、過去のある家柄とかに着目をして特定の尊称を与えるとか、付与するとか、継続的な地位を保障するということになると、確かにもう一般国民なわけだから、平等の問題が生じるかもしれない。ただ、そうではなくて、特定のいわば一般国民になった方に対して、特定の機会をとらえて、その見識・能力・実績という面から考えて、そのある機会にふさわしい方だということであれば、その役目を果たすことが十分に期待される者として、一定の期間、他の国民と異なる処遇をするのは、いわば合理的にあり得る選択肢ではないかというふうに考えている。

必ずしも例えが適切ではないが、公共契約、政府契約の場合は随意契約が原則として駄目であり、一般入札を採らなければならないが、特定の工法とか技法がどうしても必要になるという場合には、随契を採ることができる。そういう、原則と違う考え方を採用する場合の一つの側面かなと思う。

問9だが、①と②がある。①は養子縁組であるが、いろんな理由、例えば宗系の紊乱(ぶんらん)を招くということであるから、そういうおそれが今でもあるとすると、やはり養子というのは避けたほうがいいんだろうなという結論になる。ただ、そういうおそれがないというのであれば、それも一つの選択肢としてあり得るのではないかということになる。

ただ、もう一つの②のほうだが、新たに皇族とするというのは、私としてはハードルが高いと思っている。第2案については、具体的には多分、かつて皇族、臣籍に降りた方々、あるいはその系統、そこから対象者・適格者を選別しようという具体的な案だろうと思うが、しかし、これは一般国民なわけだから、その一般国民の中における平等原則に対して、いわば門地などに基づく例外を設けることになる。

名前は「皇族」でも「新しい皇族」でもいいが、そういう継続的な特例的な地位を認めようということになると、やっぱりこれは憲法14条3項、つまり華族その他の貴族の制度を認めない、と言っているわけだから、そういう継続的な地位を特定の国民の間でそれを認めるということになると、憲法のハードルは高いように思う。

急ぎ足となったが、私の話はこれで閉じさせていただく。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと大石氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 問9の、従来の政府ではあまり検討してこなかった、皇統に属する男系の男子を皇族とする案①②について、②については憲法上の懸念があるということを御指摘されていたが、①についてはいかがか。明治憲法、旧典範に言及されていたが、現行憲法での憲法論と政策論として、違憲性であるとか何か深刻な問題というものがあれば、教えていただきたい。
・ 養子縁組を可能にするというのは、最終的には世襲制との問題である。我々一般国民の間の養子というふうに考えると、全く違う人を持ってくると。特に名門の家系は大体それをおやりになる。
だから、それは普通なのだが、皇室においてそういうことが突然行われるということになると、一体どこが宗系としてできるのかという、これはレジュメにも書いてあるように、「皇室典範義解」の中の言葉であるが、それを整理しておかないとかなり面倒なことになる。
最初のところで省略したが、明治の8年頃にはそういう検討もなされていて、つまり養子を持ってくる場合、あるいは皇后の養子という形で位置付けるという場合に、いわゆる嫡出の皇子が生まれる可能性が全くないということを見極めないと、その後でないと無理である、ということも検討しているわけである。そうでもないと、養子に入れた以上は嫡出と同じ扱いになるから、一体どっちを先にするのかという問題が生じる。養子を入れた後、もし皇子が生まれた場合にどうするのかというやっかいな問題も出てくる。その点の検討が進められていないので、かなりこれはそのこと自体問題である。
ただ、広く世襲ということで、明治からずっと考えられたのは、いわば広い意味での皇族がいて、皇族内の養子というのは、いわば血統がつながっているわけである。その可能性は完全には排除できない。つまり、それは世襲とは相いれない、という議論とはちょっと違うと思う。だから、そこでぎりぎり可能ではあるというふうに考える。

・ 内親王、女王は婚姻後も皇室の身分を保持することについて、あり得るというお考えであったが、その場合に、御本人たちの意思についてはどのようにお考えか。
もう一つ、内親王、女王が婚姻後も皇室に籍を置かれるということを選んだ場合に、その配偶者や子も皇族になるというお考えであるが、これは皇位継承とも関わってくることになるかと思う。仮に、今の現状で長子優先を採るならば、またそこで皇位継承順位というのも関わってくるのではないかと思うが、どうお考えか。
・ かなり具体的な問題になるのでなかなか議論しづらいところもあるが、制度の問題として言うと、先ほど申し上げたように、やっぱり血統によって基本的に受け継ぐということからすると、女性皇族、そこからお生まれになった人というのは、やっぱりその血統をちゃんと受け継いでいるわけだから、その議論でいけるのではないかと思う。
その場合、女性皇族の配偶者はどうするのかという話が出てくるが、家族の中でいろんな立場が違うというのは、我々の世界でもそうであるが、不仲の原因になり得る。同じファミリーの中で、この方はこちら、この方はこちらということになると、いわば国家事務としてどういう整理ができるのかというのはかなり難しい問題になる。そういうことを考えると、やっぱり御一家として支えるということになると、全体として皇族という位置付けを与えて、それなりの配慮をするというのがいいんではないか、というのが現在の私の考えである。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、大石氏からのヒアリングを終了し、約10分間の休憩となった。

(4) 宍戸常寿氏(東京大学教授)からの意見陳述及び意見交換

資料4 : 宍戸 常寿 東京大学教授 説明資料(PDF/284KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように宍戸氏から意見陳述があった。

私は憲法を研究している。皇室制度について専門的に研究をしてきたわけではないが、日本国憲法の全体構造及び統治機構における天皇制の在り方については、自分なりに先行する研究に触れ、ある程度の考えを持ってきた。

本日はそのような立場から、天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議で示された課題について、お手元の資料に沿って、意見を申し上げたい。

まず、事前にいただいた聴取項目について、個別に述べる上で前提となる考え方を「はじめに」として申し上げたい。冒頭述べたことと重なるが、以下では、憲法上の国家制度としての天皇制を前提に、一憲法研究者として意見を述べさせていただく。

憲法上の国家制度としての天皇制について検討するに当たっては、以下のような視点が導かれるものと考える。

第1に、国民主権原理をはじめとする日本国憲法の全体像と整合性のある制度であるべきこと。

第2に、天皇・皇室の「伝統」とされる観点とともに、憲法第1条の定める主権を有する国民の総意に基づき維持されるよう、現在・今後の日本社会の在り方と両立すべきこと。特に日本社会の在り方に関しては、天皇が日本国民統合の象徴であることから、家族の在り方に対する国民意識とかけ離れないことが求められると考える。

第3に、大日本帝国憲法下の国家制度としての天皇制やそれ以前の天皇・皇室の在り方だけではなく、日本国憲法施行から現在に至るまで、国民の受け止めも含む天皇制の運用も考慮されるべき「伝統」の一部を成しているという認識も重要と考える。

次に、国家制度としての天皇制を考える際には、大日本帝国憲法と日本国憲法の構造的相違に留意する必要がある。すなわち、大日本帝国憲法下の天皇制は、皇室自律主義や華族制度、貴族院、枢密院などの諸制度を伴っていたが、それらの原則や制度は日本国憲法が明示的に否定している。その結果として、国民・国会及び政府と、天皇・皇室との間に媒介が存在しないこと。換言すれば、一般国民の服する権利の論理や、国民主権・デモクラシーの論理に、天皇制がいわばむき出しのまま埋め込まれているということに注意すべきものと考える。

このことに関連して、天皇制の安定的運用を図る第一義的な責務は、主権を有する全国民の代表機関である国会にあると考える。なればこそ、附帯決議が政府に検討と国会への報告を求め、それを受けて国会自らが安定的な皇位継承を確保するための方策を検討するとしているのは適切である。そして、その解決は、憲法上の国家制度としての天皇制を維持する前提に立つ限り、切迫した課題であると考える。

以下、聴取項目について具体的に意見を申し上げる。

第1、天皇の役割や活動についてであるが、国家機関としての天皇の第1の役割・活動は、憲法の定める国事行為を行うことにある。憲法第1条は天皇を「日本国の象徴」であり、「日本国民統合の象徴」としている。かかる象徴としての役割は、国民主権原理の下で国事行為、又は例えば国会を召集することに伴い開会式に出席するなどの、国事行為に準ずる活動を通じて果たされるものと考える。

天皇のいわゆる公的活動は、機能化し複雑化する現代社会において、国民各層からも象徴として求められてきた結果として増加してきた。しかし、天皇に憲法上期待されているのは、現に統合されている国民をそのように象徴することであり、そもそも現代社会において国民を積極的に統合する役割を天皇に期待することは、現実的ではないと考える。

現在の実務上、公的活動として取り扱われているものは、このような観点から、憲法上行うことが必要とされる国事行為と、天皇が可能な限度において行うことが許される国事行為に準ずる活動と、私的な活動とに再整理していく必要があると考える。

国事行為に準ずる活動については、国政に関する権能に当たらないこと、内閣がその責任を負うことが条件であるが、私的な活動と整理されるものについても、当然、国政に関する権能ではないこと、また、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴としてふさわしくないものは除かれるべきだと考える。また、その該当性については宮内庁、最終的には内閣によるコントロールが必要であると考える。

問2、皇族の役割や活動についてであるが、皇族の役割は、皇位継承に関わることに加え、摂政、国事行為臨時代行及び皇室会議の構成員となり得ることが挙げられる。なお、皇室会議について、現在の皇室典範は予備議員を含めて4名以上の成年皇族を必要としているが、これは憲法上必須のものではないと考える。これに加えて、問1で述べた天皇の活動を公私にわたって支えることも皇族の役割であるが、皇族のいわゆる公的活動は、天皇から独立した固有のものではあり得ないことから、その範囲も先に述べた天皇の公的活動の範囲に合わせて整理していくべきものと考える。

問3、皇族数の減少についてであるが、国家制度としての天皇制の安定という観点からは、一定の皇族数を確保する必要があると考える。他方、この必要を超えて皇族数を増加させることは、国の財政的負担などから分かるとおり、国民の支持という天皇制の基礎を弱める可能性があると考える。

なお、皇族数を増加させるために、家族の在り方に対する国民意識を含む日本社会の在り方や、日本国憲法施行後の天皇制の運用からかけ離れた方策を採るということは、国家制度としての天皇制に対する国民の支持を弱める可能性に加えて、他の国から見て天皇制、ひいては日本社会に対する誤解を招く可能性があることも留意すべきものと考える。

問4、皇統に属する男系の男子である皇族のみが皇位継承資格を有し、女性皇族は婚姻に伴い皇族の身分を離れることとしている現行制度の意義についてである。かつては女性の天皇も存在したところ、明治維新以降、それまでの天皇・皇室の在り方を当時のヨーロッパの君主制の在り方も参照しつつ、意識的に伝統を確認、形成したものを、日本国憲法の下で引き継ぐことにしたと受け止めている。現行制度は、このような伝統の下で、皇位継承順位を明確にし、皇位継承資格を有する皇族の心構えを含む皇位継承への準備、さらには国民の側で将来この皇族が天皇になるんだという予期を形成する利点を持つものと評価している。他方、この現行制度は、皇位継承者数の減少をもたらす制度的要因となっていると考える。

そこで問5、内親王・女王に皇位継承資格を認めることについてであるが、一般に憲法第2条の定める世襲は女性を排除するものではないと解されている。したがって、皇室典範の改正により、内親王・女王に皇位継承資格を認めることは可能であると考える。

進んで、国事行為及びそれに準ずる活動は女性の天皇でも可能であり、また、日本国の象徴及び日本国民統合の象徴としての役割が、女性が天皇になることを妨げるものではないと考える。したがって、皇位継承者数が限られている現状に照らして、国家制度としての天皇制を維持する前提を採る以上、内親王・女王に皇位継承資格を認めることに賛成する。

その場合の皇位継承順位についてであるが、そもそも日本国憲法は国民一般について出生や門地によらず、対等で自律的な個人であることを前提に、憲法第3章において諸権利を保障している。これを「人権の論理」と呼ぶとすると、憲法第14条1項の定める平等原則は、「人権の論理」に属するものであることから、学説において身分制の飛び地ともいわれる天皇制の在り方に、この平等原則が直ちに影響するものではないと考える。

そのような前提をとった上で、むしろ国家制度としての設計の問題として考えた場合、皇位継承の安定性・連続性を確保するという観点から長子優先が適切と考えるが、先に述べた伝統との調整を考慮して、国会が、制度設計に当たり、兄弟姉妹間で男子を優先することも許されると考える。

問6について。皇位継承資格を女系に拡大することについてであるが、これは問5とも重なるが、憲法第2条の定める世襲は女系を排除するものではなく、国事行為及びそれに準ずる活動は女系の天皇でも可能であると考える。したがって、皇位継承資格を女系に拡大することについても賛成する。

問4で述べた、「伝統」を理由として皇位継承資格を男系に限定すべきであるとの見解は、傾聴に値するものである。しかし、男系男子の皇位継承者が限られているという皇室の現状をまずは考慮する必要がある。

また、後の問9にも関連するが、皇位継承資格を女系に拡大せず男系主義を貫いた場合に、皇位継承資格者の候補として想定される旧 11 宮家出身の国民が、現皇室から系統上相当な距離があることも、国家制度としての天皇制を考える上で重要なポイントであると考える。むしろ、日本国憲法下の天皇制としては、男系・女系を問わず、日本国憲法施行時の天皇であった昭和天皇の実系という条件を優先させたほうが、皇位継承の安定性・連続性という要請にかなうとともに、日本国民統合の象徴として国民の支持を得やすいのではないかと考える。

皇位継承順位については、これも問5で述べたことと関連するが、世襲の意義、天皇への近さ及び国民の皇位継承への予期を重視すれば、女子であるか女系であるかを問わず、長子を優先することが適切であると考える。しかし、伝統との調整を考慮して、国会が制度設計に当たり、男系を優先することも許されると考える点も、問5と同じである。

問7、内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持することについては、このような制度を採る趣旨・目的によるものと考える。問2について述べたところからすると、天皇・皇族のいわゆる公的活動を広く認めた上で、それを支えるために内親王・女王について婚姻後も皇族の身分を保持するという制度には、問題があると考える。

他方、問6について述べた私見からすれば、皇族及び皇位継承者の数を確保するという観点から、女系にも皇位継承資格を認める場合には、その前提として内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する制度が前提となる。その場合には、生まれてくる子、さらに配偶者を皇族とするのが適当と考える。

次に問8である。婚姻により皇族の身分を離れた元女性皇族が皇室の活動を支援することについてであるが、ここにいう皇室の活動が国事行為及びそれに準ずる活動を指すものであるならば、消極に考えている。皇族の身分を離れた元女性皇族といえども、既に一般国民となった以上は、法の下の平等を始めとする「人権の論理」が及んでいる。

そうすると、元女性皇族である国民が、天皇・皇族に限って認められる国事行為に準ずる活動を行ったり、それを支援したりすること、また他の一般国民には就任し得ない、そのような活動・支援を行うための公職を制度化することは、憲法第14条1項後段が禁止する、門地による差別に該当し得ると考える。さらに、国民主権原理を前提にする国家制度として、例えば天皇が国政に関する権能を有しないことと、その元女性皇族の方が一般国民として参政権、表現の自由を保障されているということの調整を含めた、重大な憲法上の疑義があると考えている。

他方、元女性皇族が伊勢神宮の祭主を務める例がよく知られているが、そのように、元女性皇族である一般国民が、問1で述べた天皇・皇族の私的な活動を支援するということは、その性質により許される場合があると考えている。

そこで問9である。皇統に属する男系の男子を皇族とすることということについては、これは非常に難しい問題であり、様々な考え方があり得るということを承知しつつ、現時点での私の考えを申し上げたいと思う。

①の現行の皇室典範により皇族には認められていない養子縁組を可能とすることについて。まず、これは恐らく御質問の趣旨から離れると思うが、皇族間での養子縁組は今後の検討に値するものと考える。例えば、仮に女系女子の皇位継承を認めつつ、皇位継承順位として男系男子を優先させるという場合には、結果として天皇と次代の皇位継承者などが系統上かなり遠くなるという事態が想定される。この場合に、本人の皇位継承への準備に加えて、国民から見た皇位継承の安定性・連続性を高めるという点で、かつての猶子のように、天皇の実子と同様に扱うための養子縁組が一案として考えられるところである。

他方、皇族と、皇族ではない皇統に属する男系男子との養子縁組については、制度化を検討するに当たって整理すべき論点が多岐にわたると考えている。第1に、法律で養子たり得る資格を一般国民の中から皇統に属する男系男子に限定するならば、問8で述べたのと同じく、門地による差別に該当するおそれがある。

さらに、仮に旧 11 宮家の男系男子に限定する場合には、皇統に属する男系男子である国民の間での、旧 11 宮家に属するかそうでないかによる差別に該当し得るといった問題も生じ得る。

第2に、現代の制度上、皇族となるには、単に生物学的に男系男子であるというだけでなく、特別の国家制度である皇室会議の議を経た婚姻から出生した男系男子であることが前提とされてきた。

これに対して、男系男子であるということを養子縁組の要件とする場合には、例えば法律上の婚姻から出生したことであるということが、必要かつ十分であるのかということを始め、少なくともこれまでの考え方との整合性が問題となる。

今の点と関連して第3に、現在の制度上、皇位継承資格者であるためには出生時より皇族であるということが条件であり、そのことが本人の皇位継承への準備及び国民の予期を形成する前提となってきた。それに対して、それまで「人権の論理」の中で個人としての意識を持って成長してきた一般国民を、養子縁組により皇位継承資格を有する皇族とすることについても、これまでの考え方との整合性が問題となり得る。

なお、このような問題をできる限り回避しようと思うと、例えば民法の定める15歳未満の者を養子とする縁組の特例、さらに、実方の血族との親族関係を終了させる特別養子縁組の制度を参考とする仕組みを導入することも考えられる。しかし、それは、その未成年者について、国民個人として生きるか、皇族として生きるかどうかの自己決定を、年少のうちに否定するという帰結をもたらす点が、別の憲法問題を招くということも指摘しておきたいと思う。

第4に、皇統に属する男系男子が、本人の意思に基づく養子縁組により皇族になるとすると、その制度は、当該国民が積極的に自らの意思で皇位を継承する地位に就くという要素を含むことになる。このことは、皇位継承に当たって、皇嗣に意思決定の自由を認めていないこれまでの考え方との整合性も問題になり得る。

以上のとおり、聴取項目にある①の制度については、今述べた諸論点について、既存の制度や考え方との関係を十分慎重に整理する必要があると考える。なお、問6について述べた私見からすると、仮に皇族の養子縁組を可能とするのであれば、例えば昭和天皇の女系の子孫も、日本国憲法下での日本国の象徴及び日本国民統合の象徴たり得る者として、養子縁組の対象として考えるべきではないか、という論点も別に生じると考えている。

②の皇統に属する男系男子を現在の皇族と別に新たに皇族とすることについても、内親王・女王との婚姻を通じた皇族との身分関係の設定によらず、一般国民である男系男子を皇族とする制度を設けるということは、問 8 で述べた門地による差別として憲法上の疑義があると考えている。

最後に問10、安定的な皇位継承を確保するための方策や、皇族数の減少に係る対応方策について、その他の提案は私からはない。

1点、後者について、問7で述べたこととも関連するが、皇族の数が減少した場合には、皇室の活動量もそれに見合った形で減少させるというのが自然かつ適切な対応であり、皇室の活動量を維持するために皇族数を増やすという発想に立って対策を検討すべきではないと考えている。

以上、雑ぱくではあるが、私からの意見陳述は以上である。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと宍戸氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 法律論とは離れるかもしれないが、現在、皇位継承資格者である悠仁さまがいらっしゃる。その上で、女性天皇の議論、あるいはその先の女系天皇の議論をする場合、今の先生のお話をどういう時点から適用すべきなのか、という問題が出てくると思うが、先生のお考えがあればお聞かせいただきたい。
・ その制度的な変更をどのような時点で行うかということについては、現に皇位継承資格をお持ちの方々の予期や準備、あるいは今まで皇位継承資格を持っておられなかった方の予期に関わるために、かなり慎重な検討が必要であろうと思う。
考え方としては、悠仁親王が皇位を継承されるということを踏まえて、その後から適用するというやり方も、十分、一つのやり方だろうと思っている。私としては、今日は基本的に制度の問題としてお話をして、どの方がどうということについては、法律屋としては触れないという形でお話をさせていただいたところである。

・ 問1に対する回答の中で、天皇の活動の範囲のお話があった。これについて、先生の分類によると、国事行為に準ずる活動、その次が私的な活動ということになっている。天皇が国民統合の象徴でいらっしゃって、国民から幅広い支持を得ている必要があるというときに、私的な活動と国事行為に準ずる活動の間の活動というものが、実際には国民の目に触れる機会が多い。そういった活動を通じて、国民も天皇制について理解を深めていくといったようなこともあると思うが、その点についてどうお考えか。
もう1点、問6に対する回答のところで、日本国憲法施行時の天皇であった昭和天皇の子孫であることというのが、やはり一つポイントになるのではないかという御指摘があった。これは、明治憲法から日本国憲法に変わって、こういった継承問題についても、飽くまで現行憲法下の天皇を前提に考えるべきだという御意見か。
・ まず1番目の、天皇の役割ないし活動について、いわゆる例えば象徴としての行為であるとか、公的な行為というものを認めるということが、これまでの憲法学でも、また現実の国家実務上も、幅広くなされてきたということは承知をしている。
ただ、私が考えるに、非常に多様化・多元化してくる現代社会の中で、象徴としての行為というものをやろうとすると、天皇・皇族の方々が、非常に多様な人々と会って話をするということが恐らく際限なく増えていき、この人たちに会わない、この人たちに会う、このアジェンダについてはいわば公的活動として取り上げる、取り上げないということが、かえって日本国民統合にとって反作用をもたらすということもあり得るのではないか。それを避けようと思うと、際限なく活動が増えていくというようなことは、やはり本来の憲法の出発点を考えたときに、何かおかしいのではないか。国事行為に準ずる活動を通じて、その範囲内で今のようなことに取り組んでいただくという枠を設けたほうが、むしろ天皇制の安定に資するのではないかと私は考えているということである。
2番目の論点について、必ずしも日本国憲法によって新しい天皇制が創設されたと考えているわけではないが、しかし、日本国憲法が施行されたときに、そのときは明らかに昭和天皇という存在を、いわば憲法制定上の事実として前提としている。そうであるとすると、昭和天皇の実系の方に皇位継承資格を認めるということが、それほどおかしなことではないという趣旨で申し上げたということである。

・ 先生がおっしゃっている、家族の在り方に対する国民意識を含む日本社会の在り方、まさにそれが象徴ということになるのだろうと思うが、家族の在り方ということについて、具体的にどのようなことをイメージされているのか。
憲法24条の両性の合意のみに基づく婚姻というのがどこまで適用されるのかなど、天皇・皇族には一般国民と違っている点がいろいろとあると思う。ここで、例えば問3の中で先生がおっしゃっている家族の在り方というものについて、具体的に教えていただきたい。
・ これも複数論点があると思う。例えば、明治憲法下においてもいわゆる庶出の天皇を認めるかどうかということについて、かなりの議論があったところである。現在、我々の一般的な制度においては、婚内子と婚外子の差別を解消していくということは、重要であるわけだが、他方で、皇位を世襲によって継承していくということであるときに、専ら皇位継承者を確保するという観点から、普通の国民が採らないような家族制度を認める、例えば、強制的な、婚姻相手を何らかの形で御本人たちの意思によらずに選ぶといったようなこととか、あるいは、一定の間、皇子が誕生しなかったという場合に、配偶者を替えるとかいうことは、普通の我々の家族についての在り方に反するものであり、それを天皇あるいは皇室において採るということは、かえって天皇制に対する国民の支持が揺らぐことになりはしないかという趣旨である。

・ 先生の皇族数の減少についての考え、皇室の活動量を維持するために皇族数を増やすという発想に立つべきではないという考えに、非常に納得した。
ただ、その場合に、今、減少をどのように解消していくかといったときに、一定数の確保というところの、何をもって一定数と言ったら良いのか、非常に難しいところだと思う。皇族であるのは、生まれながらのことであって、一種の運命であるとも思うし、皇族数が増える・減るということは、御本人たちには全く関係のないことで、それをプラスと考えるかマイナスと考えるかということもそれぞれにあると思う。例えば今の制度では女性は皇位継承順位の中に入っていない。しかし、皇族として残り、皇族及び天皇をお支えする立場というのは、女性の立場という意味では、あまり男性とは平等ではないとも感じられる。
そこで、何をもって適切な数、一定数と言ったら良いのか、その点について、先生はどうお考えか。
・ 非常に難しく、同時に非常に重要な御指摘だと思う。
最終的には、やはり先ほど申し上げた主権を有する国民総体として、皇位継承資格者がこの世代に、例えば1人いるといえば十分と考えるのか、2人、3人といたほうが安心できると考えるのか、まずそこが制度設計の出発点になるだろうと思う。
そして、それに伴った形で、皇族の広い意味での範囲をどう考えていくのかということを、決めていくということになるだろうと私は考えている。

・ レジュメの問9①に対する回答のうち、2つ目のポツの「(エ)」について、「皇統に属する男系の男子が本人の意思による養子縁組より」云々というのは、即位の意思決定の自由を認めないという考え方との整合性で問題となるということだったと思う。これはおっしゃるとおりかと思うが、だとすると、例えば、養子縁組で養子になられた後に、その方のお子さんとして生まれた子どもについては、この問題はないという理解でよろしいか。
・ 御指摘のとおりである。そういうことも含めて考えを整理する必要があると考えている。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、宍戸氏からのヒアリングを終了した。

(5) 百地章氏(国士舘大学特任教授)からの意見陳述及び意見交換

資料5 : 百地 章 国士舘大学特任教授 説明資料(PDF/2,308KB)

ア 意見陳述

座長からの紹介の後、次のように百地氏から意見陳述があった。

レジュメを基にお話をさせていただく。

はじめに、安定的な皇位継承をいかにして確保すべきか。この問題を考える際にはまず原理原則を明らかにすべきである。すなわち皇室の伝統と憲法を基に考察すべきであって、男系か女系かなどといった無原則な議論や思い付きからは正しい解決策は得られないと思われる。なお、質問項目については陳述全体を通じ順不同でお答えする。

1、皇室の伝統および憲法は男系である。
(1)皇室の伝統は言うまでもなく男系、126代の天皇は全て男系である。天皇の系図を見ると直系継承ばかりでなく、非常に複雑である。これは男系による皇位の継承を維持するためであった。皇位継承の危機は何度もあったが、特に大きな危機は、南北朝時代を除くと4回もあった。第1回目が第25代武烈天皇から第26代継体天皇まで10親等、約200 年も離れていた。2回目が第48代称徳天皇から第49代光仁天皇まで8親等、130年。第3回目が101代称光天皇から102代後花園天皇まで8親等100年。そして第4回目が第118代後桃園天皇から第119代光格天皇まで7親等、70年も離れていた。

このように、先人たちは男系を維持するため英知を傾け、血のにじむような努力を払ってきたのである。それゆえ私たちも先人たちの努力に倣い、世界に比類のない2,000年近いこの皇室の長い伝統を後世に守り伝えていく責務があると思う。

そのためには、まず歴史と伝統に謙虚に向き合う姿勢が必要であり、現代人の価値観を優先させてはならない。

(2)憲法第2条は、皇位は世襲のものであると定めており、これを受けて皇室典範第1条は、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定めた。つまり、憲法による世襲とは男系を意味するというのが立法者意思である。そして、歴代政府も一貫して、皇位の世襲とは男系、少なくとも男系重視を意味すると解釈してきた。確かに政府見解は男系を絶対条件とするものではない。しかし、戦後70年以上積み重ねられた政府の公式見解は極めて重いものがある。それゆえ、このような立法者意思や確立した政府見解を無視して、安易に女系を容認するのは憲法違反の疑いがあり、許されない。

ちなみに、憲法第1条は天皇の地位が日本国民の総意に基づくとしているが、この総意とは、日本国憲法が制定された当時の国民の意思であり、世論調査の結果などとはもちろん別である。

政府見解を一部御紹介する。
①憲法制定時の昭和 21 年の内閣法制局想定問答では、「皇統は男系により統一することが適当であり、少なくとも、女系ということは皇位の世襲の観念の中には含まれていない」。
②金森徳次郎憲法担当大臣の答弁では、「本質的ニハ現行ノ憲法ト異ナル所ハナイ」。
③昭和 39 年の宇佐美宮内庁長官の答弁では、「男系をもって貫くということが、世襲の精神に合うのではないか」。
④昭和 58 年の角田礼次郎内閣法制局長官の答弁では、「男系の男子が皇位を継承されるというのが、我が国古来の伝統であって、その伝統を守るということで現在のような規定ができた」。
⑤平成4年の加藤紘一内閣官房長官の答弁では、「この規定、憲法第2条は皇統に属する男系の男子が皇位を継承するという伝統を背景として決定された」。
⑥平成 24 年の野田佳彦首相の答弁では、「古来、ずっと長くそういう形、男系で続いてきた歴史的な重みというものをしっかりと受け止める」。
⑦平成 26 年の安倍晋三首相の答弁では、「男系継承が、古来、例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえつつ、考えてまいりたい」。
➇令和2年の菅義偉首相の答弁では、「男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みを踏まえながら、慎重かつ丁寧に行う必要がある」とされている。

(3)有力な憲法学者たちも、憲法第2条の世襲を男系と解している。
①美濃部達吉博士は、「皇統は専ら男系に依り女系に拘わらないことは、我が古来の成法」であると言っておられる。②宮沢俊義教授も、皇位継承のためには「かならず「男系」により皇統に属することが必要である」とおっしゃっている。それから、小嶋和司東北大学教授、④佐藤幸治京大教授なども同じく男系でいらっしゃる。また他に田上穣治一橋大学教授も男系でいらっしゃる。詳細は、レジュメに記載した拙稿を御覧いただけたらと思う。

2、女系天皇、女性天皇への疑問。
(1)女系天皇の問題点。
①女系天皇は、2,000年近い皇室の伝統を破壊するだけでなく、憲法違反の疑いさえある。
②女系天皇は万世一系の皇統を否定するものであって、認められない。井上毅は、イギリスの王朝がヨーク朝からチューダー朝、さらにスチュワート朝へと交代したのは、女系による王位継承が行われたためである。ヨーク朝の最後の女性、エリザベスがチューダー家の男性、後のヘンリー7世と結婚すると、それによってチューダー朝が始まったように、女系継承の都度王朝の名前が変わってきた、と述べている。それゆえ、もし我が国で女系天皇を容認すれば、その時点で初代神武天皇以来の皇統は断絶し、新たに別の王朝が誕生してしまうことになる。つまり、女系天皇の誕生によって、万世一系の皇統は断絶してしまう。また、新たに誕生した王朝については当然正統性が問われることになる。

(2)女性天皇の問題点。
①歴史上、8方 10 代の女性天皇が存在したが、全て男系であった。女性天皇は、ふさわしい男子が得られないときに一時的、例外的に皇位に就かれただけであり、皇位の安定的継承に資するものとは言えない。また、女性天皇は御在位中伴侶を持たれることはなかった。これは女系の子の誕生を防ぐためであった。
②「愛子天皇」への疑問。愛子さまは男系であり、理論的には天皇となられる資格をお持ちかもしれない。しかし、皇室典範第1条は男系の男子を要求しており、愛子天皇はあり得ない。愛子天皇論は、憲法と皇室典範を無視した議論であると思う。また、男子不在であればともかく、現に皇嗣・秋篠宮殿下と悠仁親王殿下がいらっしゃるのだから、皇室典範を改正してまで愛子天皇を実現しようとするのは疑問である。
③女性天皇の問題は、男女平等とか女性の社会進出などといったこととは次元が異なる。皇室典範第1条の「女性天皇の禁止」が、憲法第 14 条の法の下の平等に違反しないことは、政府見解も憲法学説も一致して認めている。つまり、法の下の平等は一般国民を対象とした国政上の原則である。それに対して憲法第1章は、法の下の平等と対極にある世襲の天皇制度を認めたものであって、皇室は法の下の平等の例外とされている。

3、いわゆる女性宮家の問題点。
①宮家、世襲親王家は皇統の危機に備え、男系男子の皇位継承権者を確保するために存在するものであり、女性宮家ではその役割は果たせない。それゆえ、歴史上も女性宮家など存在しなかった。
②女性の配偶者である民間人男子のみを皇族とする一代宮家を創設した場合、子が誕生したときは親子別籍、親子別姓、親子別会計の奇妙な家族が誕生する。果たしてこれを正常な家族と呼べるのだろうか。
この疑問を解消するべく子も皇族とすれば、女系皇族が誕生し、女系天皇につながるおそれが出てくる。これは皇室の伝統と憲法に違反する。

④女性宮家の最大の問題点は、皇室と全く無縁な民間人成年男子が、結婚を機に突然皇族となって皇室に入ってくる危険があることである。
⑤婚姻により皇籍を離脱され民間人となられた女性皇族には、天皇の御沙汰により非常勤の国家公務員などの形で、必要な折、皇室活動を支えていただくことも考えられる。その際、御沙汰により皇女あるいは王女などの称号を賜ることはあり得るのではないかと思う。

4、旧皇族の男系男子孫を皇族として迎え、男系による皇位の安定的継承を。
(1)皇室と世襲親王家、宮家は常に一体の関係にあった。
①室町時代以降、4つの世襲親王家が成立し、3方の天皇が誕生している。例えて言えば、1本の柱、皇室を、4本の支柱、宮家で支えてきたということが言えるかと思う。

具体的には、4宮家のうち、伏見宮家からは第102代後花園天皇が、有栖川宮家からは第111代後西天皇、そして閑院宮からは第119代光格天皇が即位されていらっしゃ
る。

光格、仁孝、孝明、明治と続く幕末の天皇は、成長された直系の男子はお1人だけという厳しい状態にあった。まさに綱渡り状態だった。そのため、傍系の伏見宮家や有栖川宮家などの親王を頼りとされた。しかし、現在はその傍系の宮家も存在しないわけである。明治天皇は明治12年まで直系の男子が不在であり、誕生された1人の皇子、後の大正天皇も御病弱であった。したがって、この間は直系の皇位継承権者は存在せず、傍系の有栖川宮家の威仁親王を頼りとされたと言われている。

②皇室と世襲親王家は密接な関係にあり、これは資料2の図に示したとおりである。
後で御覧いただけたらと思う。旧11宮家につながる伏見宮家からは、後花園天皇が誕生した。また、歴代当主は、血はどんどん離れていくけれども、その時々の天皇の名目上の養子、猶子として親王に任ぜられ、皇位継承権を有した。そして、江戸中期から幕末にかけて、実際に天皇の候補とされた当主も2人おられた。さらに、宮家に当主不在のときは天皇の皇子が伏見宮家に入られたり、天皇の皇女2人が伏見宮家に降嫁していらっしゃる。

明治天皇は、4人の内親王を、伏見宮家につながる4宮家、朝香宮家、東久邇宮家、竹田宮家、北白川宮家に降嫁され、直系の危機に備えられたのではないかと思われる。

また、昭和天皇も、1人の内親王を東久邇宮家に降嫁されていらっしゃる。

(2)旧 11 宮家 51 人の皇族の皇籍離脱について。
①旧皇族の皇籍離脱は、形式的には自ら願い出たものとされている。しかし、実際には、GHQの圧力の下、約9割の財産課税や収入の途絶によって、主に経済的な理由からやむを得ず皇籍を離脱せざるを得なかったというのが実情である。また、昭和天皇は、旧皇族の皇籍離脱に反対され、最後まで抵抗されている。
②歴史上、皇族の臣籍降下は天皇の命によるか、自ら願い出て天皇がお認めになる方法しかなかった。しかし、旧宮家の方々は、敗戦後の占領下において、GHQ、つまり外国の圧力の下に皇籍離脱を強いられたものであり、極めて例外的なものと考えなければならない。
④加えて、旧11宮家、26名の男子皇族は、現行憲法下でも昭和22年10月14日に皇籍を離脱されるまでの約5箇月間、皇族の身分と皇位継承権を有しておられた特別な方々でいらっしゃる。

(3)戦後皇籍を離脱された旧宮家の方々は、明治以降、全て伏見宮家の家系に属しておられた。そして、旧皇族及びその男系男子孫の方々は、現在の皇室と親戚関係にある方々ばかりである。このことは資料3、旧宮家略系図を御覧いただければ明らかである。

具体的には、
①現在の皇室と旧皇族及びその男系男子孫の方々は、明治以降全て親戚関係にある。具体的には、久邇家の当主邦昭氏は上皇陛下といとこ関係にあり、東久邇家の当主も今上陛下といとこ関係にある。また、東久邇家には明治天皇と昭和天皇のお2人の内親王が降嫁され、竹田家にも明治天皇の内親王が降嫁されている。さらに、旧賀陽宮家は明治時代に久邇宮家から分家して設立された。
②旧宮家のうち、久邇家、賀陽家、東久邇家、竹田家の4家系には、現在20代以下の未婚の男系男子が少なくとも10名はおられると思われる。

(4)現在の皇室と旧宮家の方々は皇籍離脱後も親しく交際され、今でも親密な御交流があると伺っている。
①昭和天皇のお言葉、「此度、臣籍に降下になるとも、皇室との交際は、ちっともかはらぬ」。
②寬仁親王も、「みなさんが意外とご存知ないのは、我々現職の皇族と旧宮家の方々はすごく近しく付き合ってきたことです。それは先帝様のご親戚の集まりである「菊栄親睦会」をベースとして、たとえばゴルフ好きが集まって会を作ったりしています。また、お正月や天皇誕生日には、皇族と旧皇族が全員、皇居に集まって両陛下に拝賀というご挨拶をします。最初に我々皇族がお辞儀をして、その後、旧皇族の方々が順番にご挨拶をしていく。ですから、我々にはまったく違和感などありません。」とおっしゃっている。
③平成6年4月に霞会館で開催された「菊栄親睦会」の写真を見ると、旧宮家からは伏見博明氏、久邇朝建氏、久邇朝宏氏、梨本徳彦氏、朝香誠彦氏、東久邇信彦氏、壬生基博氏、東久邇眞彦氏、東久邇盛彦氏、東久邇征彦氏、北白川道久氏、竹田恒和氏、まだ小中高生と思われる東久邇照彦氏、東久邇睦彦氏、壬生基敦氏ら15名の男性が参列しておられることが分かる。これは写真にあるとおりである。

(5)皇室典範の特例法として「旧皇族の男系男子による皇族身分取得特例法」、これは仮称であるが、あるいは「旧皇族の男系男子による養子特例法」、これも仮称であるが、こういった法律を制定し、旧皇族の男系男子孫の中から、何人か若いふさわしい方々に皇族になっていただいたり、現宮家の養子という形で皇族になっていただき、将来宮家を名乗っていただく。そして、悠仁親王殿下を支えていただく。
①現皇室典範第1条で、「皇統に属する男系の男子」として位置付けられた旧皇族の男系男子孫の方々は、皇室と親戚関係にあり、今なお皇室とは親密な御交際がなされている。そのような歴史的に由緒正しい若い方々を新たに皇族、ないし宮家の養子としてお迎えするのであれば、国民感情としても受け入れやすく、理解も得られやすいのではないか。また、女性宮家のように、皇室と全く無縁な民間人成年男子が女性皇族との婚姻を機に突然皇室に入ってくるのと異なり、はるかに安心できるのではないか。
②旧皇族の男系男子孫で皇嗣・秋篠宮殿下の次の世代に属する若い方々を皇族としてお迎えするのは、できるだけ早いほうが望ましいと思う。というのは、皇族としての教育をお受けいただくのは、できるだけ世俗に染まらないお若いうちのほうが良いと思われるからである。また、このままいけば悠仁親王殿下をお支えする皇族は減少する一方であることから、少しでも早く旧皇族の家系から皇族をお迎えして、悠仁親王殿下をお支えする体制を整えていただきたいからである。
④終戦時の首相、鈴木貫太郎が、将来皇位継承権者がいなくなったらどうするかと加藤進宮内府次長に尋ねたところ、加藤は、「かつての皇族の中に社会的に尊敬される人がおり、それを国民が認めるならその人が皇位についてはどうでしょうか」と答えている。また、別のインタビューでは、旧皇族の方々に対して「万が一にも皇位を継ぐべきときがくるかもしれないとの御自覚の下で身をお慎みになっていただきたい」と申し上げた旨、証言している。

(6)皇室典範第2条は皇位継承の順序を規定しており、第1項では「皇位は、左の順序により、皇族に、これを伝える。」と述べ、皇長子以下の現在の皇族男子の皇位継承の順序を定めた。それに加えて第2項では、「前項各号の皇族がないときは、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に、これを伝える。」と規定している。この「それ以上で、最近親の系統の皇族」こそ戦後皇籍を離脱された旧皇族男子のことであり、第2項は直系の皇族の危機に備えたものである。それゆえ、直系の皇統の危機にあって、現在、空文化している第2項をよみがえらせるため、旧皇族の家系からふさわしい男子を皇族や現宮家の養子として迎えるのは、法的に最も理にかなっているのではないかと思われる。
①皇室典範第 15 条は、皇族以外の男子が皇族になることを禁止している。それゆえ、旧皇族の家系に属する男系男子孫を皇族として迎えるためには、皇室典範の特例法として、前述の「旧皇族の男系男子による皇族身分取得特例法」を制定する必要がある。
②皇室典範第9条は、天皇及び皇族の養子を禁止しており、養子を認めるためには皇室典範特例法を制定する必要がある。それが先に述べた「旧皇族の男系男子による養子特例法」である。
③歴史上、天皇や宮家の養子は少なくない。

おわりに、従来、女系天皇、女性宮家の支持者たちは、旧宮家や旧皇族の方々について、「600年前に分かれた家系であり、戦後70年も民間人であった人々のことなど国民が理解するはずがない」の一言で意図的に排除し、現在の皇室だけを取り上げて、男系による皇位継承は困難であると主張してきた。しかし、以上述べたように、皇室と宮家は600年間にわたって常に緊密な関係にあった。また、占領下においても皇籍離脱をせざるを得なかった旧皇族と現在の皇室は親戚関係にあり、今でも親密な交際が続いている。

そして、旧皇族の中には、多くの男系男子孫がおられる。それゆえ、この中から若くてふさわしい方々を皇族に迎えれば、男系による安定的な皇位継承は可能であり、これこそが皇室の伝統及び憲法にのっとった正しい方法であることを理解してくれるはずだと思う。

ちなみに、各種世論調査では、女性・女系天皇の支持が7~8割に達している。しかし、国民の多くは女性・女系天皇の意味さえ理解していない。これは産経、NHKの調査から明らかである。それゆえ、そのような世論も無視はできないが、それに左右されるべきではないと思う。

他方、旧皇族の家系に属する男系男子の方々を皇族に迎えることについて、政府はこれまで公式に言及することはなかったと記憶しているが、それでも世論調査によっては旧宮家の皇籍復帰を支持する者が上回っているものがある。それが資料5の世論調査であり、御覧いただきたい。これは令和元年の調査で、少し古いものになるが、世論調査と国会議員のアンケート、そのうち世論調査を御紹介する。(1)が令和元年5月 13 日の産経・FNNの調査だが、女性天皇、女性宮家、女系天皇支持は多数を占めているが、女性天皇と女系天皇の違いを理解しているかというと、「理解していない」が 51.9%、旧宮家の皇籍復帰については賛成が42.3%と反対を上回っている。NHK の令和元年10月21日の調査でも、やはり女性天皇、女系天皇の支持は多数を占めるが、女系天皇の意味を知っているかという問いに対しては、「知らない」が52%である。(3)の令和元年11月19 日の産経・FNN の調査でも、やはり女性天皇、女系天皇の支持は多数であるが、同じく女性天皇と女系天皇の違いを理解しているかという問いに対して、「理解していない」が55%である。他方、旧宮家の皇籍復帰については賛成の方が多くて43.3%、微妙だが少し増えているところがある。

それゆえ、旧宮家や旧皇族の男系男子孫の御存在、旧皇族の皇籍離脱の背景などについて、政府や国会がきちんと説明すれば、さらに多くの国民の理解が得られるようになるのではないかと確信している。以上である。

イ 意見交換

有識者会議メンバーと百地氏との間で、次のような質疑応答があった。

・ 養子縁組で安定的な皇位継承の裾野を広げるという御主張であったが、これを実行するためには皇室典範9条の改正が必要になってくると思う。その際、皇室典範の改正の際に、もし養子を皇統の男子に限定するということになると、門地による差別という憲法14条の問題についてはいかがお考えか。一般国民の中からある特定の門地の方々を限定してそのような措置を可能とする際に、何か憲法上の問題や疑義というものが果たして生じるかどうか。養子ではなく、皇統に属する男子が皇室に復帰する際、憲法14条の門地による差別という憲法上の疑義が生じる可能性について、どのようにお考えか。
・ 非常に難しい問題だが、私はこのように考えている。まず、国民の権利・義務を定めた憲法の第3章は、飽くまで国民に対する、国民に適用する原則であり、皇室については男女平等の例外として適用されない。だから、例えば女性天皇は認めていないし、皇族も男子皇族は結婚後も皇族として残るけれども、女性は民間に降りられる。そういう形になっている。
そこで考えるに、旧皇族の方々は純然たる国民と言えるのかという、そういう疑問がある。もともと皇室典範第2条の2項に当たる方々として位置付けられた方々である。だから、法理論的には少しハードルがあるかもしれないが、私は潜在的に皇位継承権を持っておられる方と見ていいのではないか。あるいは直系の皇統の危機だからこそ、まさにそういう考え方ができるんじゃないかと思う。そうすると、この方々は、一般国民とはやや違った立場にいらっしゃる方々であるから、特別な扱いがなされても良いのではないかというふうに理解している。

・ 男系男子に限ってきた歴史は、先生がおっしゃったように、今日まで、安定した皇位継承という点では、非常に苦労されてきた。男系男子に限定することの脆弱性はあると思われる。そういう意味で、女系あるいは女性天皇の問題について検討の余地があるという考え方もある。
先生がおっしゃったように、皇室と全く無縁な民間人成年男子が結婚を機に皇族となるというおそれ、これは戦後、皇后陛下の人選を巡っても同じような議論があったように思う。しかし、今はむしろ、新しい血が皇室に注ぎ込まれ、より国民と皇室の関係が親近感を持たれるようになったとも言われている。
したがって、先生が指摘されたような危険性もあるが、皇室制度をより発展させる可能性もあるのではないか。そういうことについて、やはりもう少し議論する必要もあるのではないかという考え方もあると思うが、先生のお考えはいかがか。
・ まず最初に、安定的な皇位継承、男系でつなぐのは難しいのではないかと。事実、歴史がそれを示しているから簡単ではない。しかし、それにもかかわらず、我々の先人たちは必死の努力をしてつないできたという、その重みがまず大事だと思う。
その上で、男系継承が難しい理由として、反対派の人々は、しばしば、側室から誕生した天皇が半数ほどおられたことで、かろうじてつながった。しかし今日では側室は存在しないわけだから無理だろう、と主張されるが、これは、一つは医学の進歩によって解決できる。
つまり、歴代天皇についていえば、約6割、58%が正室から、皇后さまから誕生していらっしゃり、複数の皇子もおられた。それゆえ、現在のように医学の技術があれば、その方々が立派に育っておられ、立派な宮家をつくられた可能性は十分あり得るわけである。したがって、医学の進歩によって一つは解決できると思われる。
もう一つは、何度も言っているとおり、皇室を支える支柱に当たるところの宮家、これを四親王家のように幾つかきちんと用意しておけば、それによって、いざというときに対応できる。
それからもう一つは、養子制度を採用すること。養子は、歴史的にはしばしば採用されてきており、例えば桂宮家は、11代の当主のうち7代が天皇の皇子とか、あるいは皇族が入っておられるわけである。それから、有栖川宮家には確か8代のうちお2人が養子に入っておられる。さらに伏見宮家と閑院宮家にもお1人養子が入っている。養子は自然に行われてきたわけである。
したがって、幾つかの宮家を整え、その上で養子制度も採用すれば、それこそどこかの宮家に男子が誕生すれば、それによって男系は支えられる。
もう一つ。伏見宮家は600年も離れた方々とか、いろんなことが言われているけれども、皇位の継承は一般の民間における相続、例えば財産の相続とか、あるいは武家における所領の相続とは違って、必ずしも父から子へというものではない。つまり一族というものがあって、民間で言えば氏であるが、氏というものがあって、同じ氏の一族によって「氏の上」、つまり氏の長が継承されてきたから、そのどれかの一族の中で「氏の上」を継承すればいい。そして、その人は必ずその氏の祖とつながっていることが大事であると。
皇室は、氏を与えたほうであるから、氏とは異なる。しかし、皇位継承の論理は同じであり、むしろ民間がそれをまねしたわけであるが、まず神武天皇がいらっしゃる。そして、その下で皇族がたくさん誕生したわけであるが、その皇族の方々の中から天皇になるということが原則であり、一番大事なことは、歴代天皇は必ず神武天皇の血を引いていらっしゃる方なんだということである。それゆえ、できるだけ近い方が良いけれども、先代との間の年数の問題は関係ない。直接神武天皇につながる方であればよいと。そのように原理が違うのだから、民間の感覚で考えるべきではないと思う。
それから、昭和天皇が、民間の血を、ということでおっしゃっていたこと、学者でいらっしゃるから、現在の上皇后陛下も民間からおいでになったし、そのことをお考えになったことは分かる。だから、そういうことはもちろん考えつつ、立派なお妃をお迎えするようにすべきだと思う。しかし、こと男子に関しては、やはり男系を維持することが必要であると、大事だというふうに思っている。

・ 今の点に関係するが、皇室と全く無縁な民間人成年男子がいきなり皇族となり、皇室に入ってくる危険とおっしゃる点について。逆に、皇室と全く無縁な民間人女性が婚姻によっていきなり皇族となり、皇室に入ってきているわけである。そちらは危険ではなくて、男子が入ってくると危険というのは、どのような考え方によるものか。やはり皇位継承に関わるから、ということか。
・ 実はその問題は女性の国会議員との勉強会のときにも質問されたことがあり、確かにそう言われるとちょっと窮するところもある。上手く説明できないが、道鏡などの例もあり、歴史的にもそのように考えられてきたのではないか。もちろん皇族以外の男子が皇室に入ってくること自体、男系の皇統を脅かす危険があると考えたからだと思うが。

・ 旧宮家の未婚の20代以下の男系男子の皆さんがいらっしゃるということで、その方たちを皇室に養子に入れてはどうかという御提案だったと思う。これについて、二つ気になる点がある。
まずは、御家族の方たちがどういう意思を持つかということ。これは旧宮家の方々なので、どこかで共通のお考えがあるのかもしれない。しかし、もう一つが、やはり御本人たちの意思である。これは人生を変える出来事になると思うが、未成年の子どもたちが自分の人生の行く先をここで決めてしまうということへの危うさも感じた。その辺りを大人が強制したような形になるのも怖いと思うが、先生はその辺はどのようにお考えか。
・ 非常に大事な問題であり、養子制度というのはもともと本人と、民間で言えば養親と養子との間の合意が前提である。そして、15歳を基準として、法定代理人の賛成が必要だとか、いろいろ手続きがあり、その合意を強引に形成するわけにはいかないから、おっしゃるとおりである。
しかし、その上で考えると、この養子の問題について、旧宮家の方々、私も何人かの方にお会いしたことがあるが、聞くところによると、いざというときには覚悟を決めなければならないと思っている方々も何人かいらっしゃるということは伺っているし、私も具体的に人を介して聞いたことがある。
そういう方々の一族でいらっしゃるから、いわゆる民間人が突然皇室に入るのとは違うのではないかというのが第1点である。
それから、この養子であるが、具体的に家族養子というような話もこれまでに出たようであるけれども、私は、それでできれば結構だと思うが、ちょっとハードルが高いのではないかと。私の基本的な考えは、やはりできるだけ若いうちに、俗に言えば世俗になるべく染まらないうちに皇室に入っていただいて、そして、皇族としての御教育を受けていただきたいという思いがある。それから、伴侶を持たれていると、その方も含めお2人の承認が必要になるわけで、ちょっと複雑になるし、ましてや家族ということになると、例えば単純に言って、御両親と3人全員についてのいろんなことを考えなくてはならない。しかも、御両親は既に年輩のそれなりの方であろうから、サラリーマン生活を送っておられたりとか、そういうことで、国民感情としてはちょっとどうかなという感じもある。
そこで、若い方をということで、例えば 18 歳ぐらいになれば、それなりに一般社会人でも独立できるのだから、宮家に養子に入っていただくということはあっていいのではないかと。 それから、もう少し若い方であれば、もちろん御両親としっかり御相談して、皆さんが納得の上で皇室に入られるということであるが、一般の民間人と旧皇族の方々とでは、若干その辺が違うのではないかなということが前提にある。心配はあるけれども、きっと素晴らしい方が見つかるのではないかと考えている。

以上の意見陳述及び意見交換の後、座長から謝意を述べ、百地氏からのヒアリングを終了した。

(6) 第5回会議における有識者ヒアリング対象者

資料6 : 第5回会議における有識者ヒアリング対象者(案)(PDF/161KB)

資料6「第5回会議における有識者ヒアリング対象者(案)」 について、事務局からヒアリング対象の候補者の紹介を行い、資料6に記載の4名の方からヒアリングを行うことを決定した。

(7) その他

・第3回会議においてヒアリングを行った所功氏(京都産業大学名誉教授)から補足説明資料の提出があったため、配付した。

参考資料: 所 功 京都産業大学名誉教授 補足説明資料(PDF/134KB)

・第5回会議については、5月 31 日(月)17:00 から開催することとなった。

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