- 政府が発表した「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」に関する私たちの見解
- 一、「尊称による皇室活動の維持」と「元皇族の男系男子の皇室復帰」の両案の検討こそ、今日の皇室制度の課題を克服する道である。
- 二、論点整理は「女性宮家」創設により生じる重大な問題指摘を軽視するものである。
- 三、女性宮家という新しい身分の創設には憲法第十四条違反の重大な疑義が生じる。
- 四、史上初めて一般男性を皇族とする女性宮家制度は、皇室の伝統と矛盾するものであって、「皇室の伝統を踏まえながら」検討するとした基本方針に反する。
- 五、尊称案は「称号」を付与するだけであって憲法第十四条には違反せず、代案の国家公務員案は有識者からの提案にはなく、「論点整理」の主旨から逸脱している。
- 六、尊称付与によって内親王や女王が元皇族として、皇室のご活動を支えることは、「皇室のご活動を安定的に維持」する緊急課題に即応している。
- 七、政府は皇位継承制度の安定的な維持のため、元皇族の男系男子が皇籍を取得できる方策について、速やかに検討を開始すべきである。
政府が発表した「皇室制度に関する有識者ヒアリングを踏まえた論点整理」に関する私たちの見解
皇室の伝統を守る国民の会 会長 三 好 達
この度政府は「女性皇族が、今後婚姻を機に、順次皇籍を離脱することにより皇族数が減少し、皇室のご活動を維持することが困難になる事態が懸念される」として、女性皇族の身分の問題に関して有識者からヒアリングを実施し、これまでの議論を整理・検討して「論点整理」を公表した。
この中で政府は、「具体的方策」として次の二案を提案し、㈠案を中心に検討を進めるべきであるとした。
㈠女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とする案。いわゆる「女性宮家創設」案。
㈡女性皇族に皇籍離脱後も皇室のご活動を支援していただくことを可能とする案のうち「国家公務員」案。「尊称案」は困難であるとして否定。
この提案に対して、「皇室の伝統を守る国民の会」では、以下の見解を表明するものである。
一、「尊称による皇室活動の維持」と「元皇族の男系男子の皇室復帰」の両案の検討こそ、今日の皇室制度の課題を克服する道である。
本会は、政府のヒアリングが終了した本年八月の時点で、次の方針を提示した。
1、皇室活動の安定的維持を図るための制度の検討が皇室の伝統を踏まえたものとなるよう、「尊称案」による解決を提唱する。
2、男系男子による安定的な皇位継承が可能となる具体的な方策として、元皇族の男系男子を特別立法、婚姻・養子等の方法により皇室に入っていただく方策を検討し、提唱する。
本会は、皇室活動を安定的に維持する方策として、多くの有識者から提案されていた「尊称案」が、「女性宮家」創設に係る幾多の問題、危険性を払拭する対案として最善の方策であるとの認識に立っている。
また、論点整理に記述されている「皇族方の減少にも一定の歯止めをかけ」ようとする政府の意図は、元皇族に繋がる男系男子が皇族になっていただくことによって実現され、加えて、皇室活動の維持も、皇位継承制度の維持も、安定的に行なえると判断するものである。
二、論点整理は「女性宮家」創設により生じる重大な問題指摘を軽視するものである。
政府の実施したヒアリングでは、有識者より「女性宮家」の創設に強い懸念が表明された。
女性宮家創設案のA案、「配偶者及び子に皇族の身分を付与する案」に関しては、歴史上初めて一般男性が皇族となる危険性、女性宮家の創設が「女系皇族」を容認するもので、憲法違反の「女系天皇」に繋がる危険性など、長い皇室の伝統を破壊し、皇室の質的変化を生じさせかねない幾多の問題が指摘されている。
また、同じくB案の「配偶者及び子に皇族の身分を付与しない案」に関しては、一つの家族でありながら夫婦や親子の間で「姓」も「戸籍」も「家計費」も異なる奇妙な家族になってしまうことへの疑問など、重要な問題が指摘されている。
しかし、論点整理ではA案の懸念に対しては「歴史上前例がない」と述べるだけであり、B案の懸念に対しては「適切な措置を講じることが必要」としながら、疑念の根本たる「奇妙な家族」の解決には触れることなく、戸籍に関する規定の改正などに触れるに止まっている。
これでは、有識者からの重大な問題点の指摘に対して誠実に答えたものとは言えず、歴史上かつて例のない制度を導入しようとするうえで、余りにも皇室に対する配慮や慎重さに欠けると断言せざるを得ない。
三、女性宮家という新しい身分の創設には憲法第十四条違反の重大な疑義が生じる。
政府の過去の国会答弁によれば、皇族の身分が「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」と規定した憲法第十四条の例外となるのは、皇族は憲法第二条の「皇位は世襲」の規定による特別な身分であるからだとされている。すなわち男子皇族が宮家として特別扱いされるのは、自らも皇位継承資格を持ち、また男子たるその子孫も皇位継承資格を持つからである。
しかし、女性宮家案は、皇位継承資格を持たない女性に、更にはその配偶者たる一般男性や子にまで特別な身分を付与することを想定しており、「法の下の平等」や「貴族制度の否定」を定めた憲法第十四条に違反するという、大きな疑義を生じさせることになる。
四、史上初めて一般男性を皇族とする女性宮家制度は、皇室の伝統と矛盾するものであって、「皇室の伝統を踏まえながら」検討するとした基本方針に反する。
女性宮家について有識者から、「国民に全くなじみのない民間人の成年男子が結婚を介して突然、皇室に入り込んでくる」、「長い歴史を有する我が国の皇室に質的変化を生じさせる」との懸念が指摘された。
政府は「論点整理」の「検討に当たっての基本的な視点」において、「皇室の伝統を踏まえながら、これまで形づくられてきた象徴天皇制度に整合的なものとする」としているが、女性宮家は「皇室の伝統」を否定し、「これまで形づくられてきた象徴天皇制度」から大きく逸脱するものであって、基本方針と矛盾する。
また、論点整理では、一般男性が皇族になることは、象徴天皇制度の一環として許容されると断定しているが、こうした考え方を推し進めれば、その帰結として、将来、象徴天皇制度の一環であるとして、女系天皇を容認することとなるおそれが極めて多大である。
五、尊称案は「称号」を付与するだけであって憲法第十四条には違反せず、代案の国家公務員案は有識者からの提案にはなく、「論点整理」の主旨から逸脱している。
政府は、「尊称案」につき、旧皇室典範の下における制度は、華族制度などの身分制の存在を基礎としたもので、これを前例として、尊称制度を現皇室典範に規定する根拠とはなり得ないとし、法の下の平等を定めた憲法第十四条との関係においても疑義を生じかねないとして、この案の実施は困難と断定する。
しかし、この案を提唱した有識者の指摘を見れば、尊称はあくまで「称号」であって身分ではないから憲法上の疑義は生じない。また、尊称案の前例となっている旧皇室典範第四十四条は、華族制度のなかった江戸時代に行なわれた九人の方への尊称付与の実例に即したものとされており、政府の「(旧皇室典範の下における制度は、)華族制度などの身分制の存在を基礎としたもの」という尊称案に対する排除理由は、成り立たないというべきである。
加えて、この代案とされた「国家公務員案」については、この案を多少なりともうかがわせる有識者の発言としては、尊称案を前提として「宮内庁に『皇室御用掛』といった役職を設け」などとの発言があったに止まるのであって、国家公務員案を一つの案として提起することは、「論点整理」の主旨から逸脱している。
六、尊称付与によって内親王や女王が元皇族として、皇室のご活動を支えることは、「皇室のご活動を安定的に維持」する緊急課題に即応している。
今回の有識者ヒアリングでは、多くの有識者から「尊称案」が提案されている(六名が賛成、一名が反対)。
この中には、「眞子様や佳子様、また彬子様らがはつらつと活躍なさるお姿は想像するだけでも本当にうれしくなる」、「御結婚後も格式などを十分に保つことができるような経済的支援を」、「雅な御存在でいらっしゃる女性皇族に終身称号をお持ちいただく」「その方々の活躍の場を整えることは、皇室の未来に明るいエネルギーを注入する」という意見が示されている。
今回の検討課題は、減少する女性皇族が婚姻後も引続き皇室活動を続けられる方策の検討である。これは、天皇陛下のご公務のうち、「象徴としての地位に基づく公的行為」に関するご負担を軽減するため、女性皇族によるご公務分担の継続をはかろうとするものであり、それには尊称案が最も相応しい制度といえる。
また、女性宮家制度を採った場合における新たな女性宮家の創設までに要する期間、あるいは創設に伴う経費と対比すれば、尊称制度は、近々女性皇族のご婚姻があっても引き続きご公務に従事していただくことができるし、また経費の面でも抑制された制度といえよう。
七、政府は皇位継承制度の安定的な維持のため、元皇族の男系男子が皇籍を取得できる方策について、速やかに検討を開始すべきである。
今回政府は、皇位継承制度には触れないことを大前提としていたが、有識者の中には、皇位継承制度の在り方に触れた意見が多々あり、元皇族の養子案や復帰案は有識者の半数(六名)が支持し、反対は僅か二名のみであった。
政府も論点整理で「現在、皇太子殿下、秋篠宮殿下の次の世代の皇位継承資格者は、悠仁親王殿下お一方であり、安定的な皇位の継承を確保するという意味では、将来の不安が解消されているわけではない。安定的な皇位の継承を維持することは、国家の基本に関わる事項であり、…引き続き検討していく必要がある。」と指摘し、野田首相も国会答弁において、「長い伝統を踏まえると、これはやっぱり男系ということは重く受け止めなければなりません」と述べている。
政府は今後、今回の有識者ヒアリングにおいて多くの識者から支持が表明された、元皇族の男系男子を皇族とするための方策について、早急に検討に入るべきである。これこそが、論点整理が指摘する皇族数の減少に歯止めをかけ、皇室のご活動を安定的にすることにも繋がる最善の道なのである。
以上